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「嫌です、いくらなんでも!」
オフィスでも色々と無理難題を言ってくる。スルーしきれなくて、尚且つ仕事でミスをされると尻ぬぐいせざるを得ないのはなぜか私。私が転属してくるまでに、すでにオフィス内で『面倒な人』のポジションにいた彼女が私の世話係になったのは、つまり体よく押し付けられたということだ。
本社勤務ということで、誰も助けてくれないよりはと最初はありがたかったが、ひとりで乗り切った方が楽だったと思うのにひと月かからなかった。以来二年間、私が井筒先輩のサンドバッグ的な役割を果たしている。だって誰も助けてくれないんだもの。
どうして誰も彼女に強く言えないのか。それは彼女が、わが社のグループ会社の社長令嬢だからだ。父親のコネで入社したらしい。
怒らせると面倒だという話だし、程よく言うことを聞いてやり過ごして来たが……とうとう今夜、私の手には追えない厄介ごとに巻き込んでくれた。
「何が嫌なのよ。相手は超エリートよ。近づくチャンスだと思えばいいじゃない」
そう言うと、彼女の視線が私の目から逸れ、頭の先から足元までを値踏みするように巡る。はっきり言われなくてもわかる。
可愛い美人系の井筒先輩に比べれば、何もかも平均的。目立たない顔立ち、黒い直毛は長く伸ばして後頭部でひとつに結んでいる。背丈もスタイルも標準だ。
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