一里塚

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 と、かすれ声の男が股引の紐を引く。窮屈だった腰回りが痺れが開放されたように血がめぐるような気がした。    男の手が手馴れたように股引に忍び込む。   「ああ、餅のような柔肌だ」  かすれ声の笑みを含んだ声が耳元で聞こえた。    固い手のひらに腿を滑る。股引の中で腰巻が頼りなく捲れた。下腹にある茂みが空気を含みながら柔らかく膨らむ。    ――ああ、万事休すか。   「あに……きっ……んぐぐっ……」    かすれ声の男の口元を手のひらで塞いだ。   「お、おめえ、し……俺の手裏剣が……」    籠もった男の声に、小鶴は小さく首を左右に振る。 「外したのか」    男はひょろリとした印象の割に切れ長の鋭い眼光。その眉間に深い皺が寄る。悔しそうに男がを打つ。    小鶴は彼の腰元に目をやる。漆黒の鞘が見えた。重々しいその長さは一尺(三十センチ)ほどだ。    ――武器は脇差だけ……か。それも中々の(もの)。将軍に仕えていたか。    安物の着流しの襟元から見えるその胸元には、筋肉の盛り上がりが見えた。
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