茶屋の娘

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 闇の中、銀色の筋が走り首が飛んだ。鮮やかな血飛沫が吹き上がる。首を失った遺骸が小鶴に倒れ掛かる。討ち入りの時、小鶴が初めて討った相手だ。血色のないその生首がカッと目を見開き、恨めしく小鶴を睨みつける。どこからか大刀が振り下ろされた。   「はっ……」    ――夢……。    辺りを見渡す。どこかで打ち付けたのか、身体中が痛くて自由に動かせない。天井の太い梁がぼんやりと目に映った。    四畳半ほどのその部屋の中央には小さな囲炉裏がある。その中の白くなった炭が幾重にも避けるように小さな音を立て、小さな茶瓶を温めている。  部屋の隅には、白い粉が噴いたような木箱が何段も重ねられている。茶の香ばしい香り。その香りの中に菓子の甘い香りが混じっている。   「ああ、娘さん……、ああ……人を探しているのだが……」    障子越しに男の野太い声が聞こえた。大きな声だ。   「いいえ、娘さんなどここには……」 「だが、この辺りの聞き込みで、昨夜若い女がここに運び込まれたようだと聞きつけたものでな」   「それで、その方が……」 「女忍者(くのいち)と言うくらいで、今は詳しく申せんのだ……。分かった。他を当たってみるよ」   「……申し訳ありません。お役に立てずに……」    :  :  
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