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「はい……間違いございません。確かに我が主、吉良上野介にございます」
と、男は声を震わせながら言い、膝から崩れ落ちた。
「吉良殿は高貴な御家柄ゆえ、遺骸は無礼があってはならん。丁重に安置せよ」
と大石内蔵助が静かに告げた。首のない遺骸は、矢頭右衛門七に襟元と裾を整えられ、吉良上野介の寝間にあった絹の夜着布団に上野介の遺骸を羽織るように静かに安置された。
どこからか啜り泣きの音が聞こえる。
「夜が開けるぞ。急ごう」
出発の合図の銅鑼の地を這うような音が朝の冷気を揺らした。
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重い足を引きずるように一行は、浅野内匠頭が眠る泉岳寺に向かった。誰一人として口を開く者はいない。寺の門が見えたとき、小鶴は大石と約束した通り隊列を離れた。
――同志よ。来世で……。
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