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怪しく銀色に輝く一筋の何かが小鶴の視界に飛び込んだ。慌てて松の枝に飛び移る。
トン、トトトト……。
キツツキが木を叩くような音のあと、小さな風が小鶴の髪を揺らした。
――手裏剣?
小鶴は猫のように身を翻して松の根元の草むらに飛び込んだ。数日前の雪が残るそこに顔を埋めた。蒸れた腐葉土の匂いが鼻を突く。誰かに命を狙われることなど、いつものことだった。
「殺ったか」
男のかすれた声。
――恐らく忍びではない。
忍びなら、目的を果たしたあとは、さっさと声も立てず立ち去って自分の気配を消すはずだ。それは、刀を抜けば討ち果たすのが当然という武士と同様だ。
男は草むらを探っているのか、あちらこちらでガサガサと草を踏みしめる音がして、その音が近づいた。
腐葉土の匂いに青い匂いが混じる。小鶴はその場にうつ伏せて目を閉じて、全身の力を抜いた。雪解けの水が着物に沁み込んだ。小さく身体が震えた。
固いつま先が小鶴の頬を蹴った。身体がまるで丸太でも転がすように仰向けにされた。
「ああ……多分な」
と、低い男の声のあと頬を軽く二度、三度と叩かれた。
――盗賊。
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