むらさきいろお父さん

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 それから、一週間が経った。  まだ高品くんの行方は知れず、警察にはとっくに届けが出されている。  授業が終わると、私は一人で帰途につき、団地の三階の自分の家のドアを開ける。  そこには、あの日からずっと寝転がったままの駿矢が、紫色の目を私に向けて、居間の床で口をぱくぱくさせていた。  一度駿矢の担任が家に訪ねて来た時は、駿矢を押し入れに隠した。その後も色々な肩書の大人が訪ねてきたけれど、家探しまではされなかったので、弟は行方不明ということになっている。  駿矢がばたつき始めたので、私はタンスからソーイングセットを取り出し、待ち針で左手の小指の先を突いた。  小さく膨れた赤い玉を乗せた指先を近づけると、駿矢が吸い付いてくる。このごろは、目だけでなく唇まで紫色を帯びてきていた。  私は指を駿矢の口から抜き取り、自分の学習机に立てかけてある鉄棒を手に取って、再び弟の横に立った。  駿矢はまだ物足りなさそうに口をとがらせている。もう言葉も話さず、私を姉とも呼ばないその口を。  駿矢そのものの体に宿る、もう駿矢ではなくなってしまった魂を、私はどうしてやればいいのだろう。  私一人きりで、これからどうしたらいいのだろう。  父親がいれば違っただろうか。  母親を支え、弟と語り合い、私を育んでくれただろうか。  少なくともあんな風に、異様な生物がいきなり家の中に入り込んで居つくことはなかっただろうか。  高品くんも、駿矢も、今も普通に暮らしていただろうか。  今ここで、私の手から鉄棒をもぎ取り、「なんとかなるさ」と笑ってくれたらいいのに。  居もしない父親にそんなことを期待するのは、私が愚かなのだろうか。  陽が暮れていく。  窓の外で、カラスが騒いだ。  私はこの一週間ずっとそうしてきたように、ただ鉄棒を捧げ持ちながら、一人きりになった家の中で、何もできずに立ち尽くしていた。 終
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