12人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
放置はよくない
テシテシとおでこを叩く感触が痛覚に変換され払いのけた手をカプリと囓られる。ご立腹なうなおにゃあおの合唱に沈み込んでいたい意識とだるい体を覚醒させるしかない。
「んなん!」「うーにゃん!」
「、、うう、かじらないで、かわいい。テシテシ可愛い、爪は止めて。やめてよぅ。」ちゅーるあげる。ちゅーるだから許して。
やわやわ振り払い寝返った指先に触れたのはするりとした毛並みの固い鼻先。
「明智、いつまで寝るつもりなのよ。」
「、、とち、さん?」
デシデシと猫さんの比ではない圧で頭を揺らす両前足をよいしょと掴まえれば、びろんと腹を見せ立ち上がる白狐さんはムスッとしていた。
「いなりずし、って言ったじゃない。」
「あー、、」
部屋に入り込む明かりは山側からで、あれ、もしかして、ぐるっと一晩、今は朝なんじゃないか。冷え込んだのか肌寒いぜ。
「栃さん、豆せんで揚げ買ってくる。」
まずはお米を炊いて
「んっなーあぉう!!」
ちゅーるが先だった。ごめんよー。催促可愛い。
お米を仕込んで、シャワーでさっぱりしたらやけに寒かった。モコモコのパーカーを羽織り、髪はてっぺんお団子をシュシュで纏めた。運転席に乗り込んだ栃さんを助手席に押しやる。シートベルトを肩からかけるとさっとふせて外してしまう。まあいいか。
「甘酒がもう無いのよ。」
「甘酒売ってるといいね。お稲荷さんはクルミと鶏肉の五目ごはん炊いたし、厚揚げ食べたいな。やばい。お腹空いた。」
ゆうちゃんとおやつに食べたポテトサンドから食べてないんだった。そうだ、栃さんくるみむいてくれてありがとね。栃さんは知らないわってむくれた。あの無様なクルミの剥き方は栃さんだよ。歯で囓るからだよね。半分は食べちゃったんだろなあ。クルミはタマネギ袋に半量だった。用水の柵にひっかけた袋の中でザバサバ流し洗いされてたやつをもってけーって渡された。剥いてあったクルミは茶碗半分しか無く、一緒に貰ったムカゴは見あたらなかったな。
醤油蔵で運良く甘酒を買い、川向こうの豆腐屋に行くにはよみ橋を渡る。お。欄干つけたのか。よみ橋は全長六メートルの石橋だ。親柱に黒ではなく銀色のホイップクリームみたいにツンとした宝珠を冠した鮮やかな朱色の欄干は運転席の窓の高さで車幅がわからなくなる。境界よ、と先さんが目を細めダッシュボードに身を乗り出し、にんまりと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!