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「石造りの鳥居があっただろ。真っ直ぐ参道が延びててさ、脇にはでっかい楠があったけど、参道の先には小さな石燈籠が1基しかないんだよ。燈籠は祠じゃないだろ?でもその燈籠に結び縄で印をかけてたな。」手前の段差まで敷砂利で場所が開けてたからそこに社があったのかもなぁ。遠藤はデータを落としたタブレットの画像を開いていく。
「これが神輿。そんで、神様像。」
「蛇。」
画像の大人一人が抱え込める大きさの神輿は見覚えがある。鳳凰飾りはなく、ねぎ花で屋根紋は三つ巴。つんとした江戸風破風の、普段公民館にしまわれているやつだ。あれ、いいのかな?お諏訪様の神輿だよね?
「鱗咥えてるんだよな。龍神様のかね。」
ガラスケースに納められていたのはとぐろを巻く蛇神様だ。頭をあげ大きな瞳は上方を見つめる。アップの画像だと、口元に平たい鱗を咥えている。ガラスケースには一緒に崩れかけの石碑も入っていた。辛うじてお地蔵様のような仏像彫刻が浮きでているが文字は風雨に晒されて読めない。抑も文字があったのかさえわからない有様だ。
「公民館に宮司さんが着いたら連絡、ときたきた。」
行ってくるわ、と遠藤はタブレットをカメラバックにしまった。いってらっしゃい。呑み過ぎんなよ。
降り出した雨はしとしととやまない。軽自動車からベロベロに酔い潰れた遠藤が陸羽と山脈くんに抱えられ降りてきた。だからいったじゃないか。両手に花だとか笑ってんじゃないよ。
ペチリと額を叩いて頬を抓り横に伸ばしたがケラケラ笑うだけなので、そのまま上がり框で放置した。山脈くんと陸羽にはあがってもらい、タオルを渡して麦茶を振る舞う。
「ご迷惑をおかけしました。」
「うちのじじいが潰したようなもんだから。」
「山脈さん、めちゃくちゃ吞みそう。」
つるんとハゲた頭頂部。もみあげから顎にかけての白い髭のやたら眼力のあるかっこい現役消防団だ。孫は似ていない。しゅっと細くて髪はふさふさだ。髭もない。消防団にも入っていない。
「この人、顔色一つ変えないで注がれるままパカパカコップ酒やってたんだけど」
「前触れ無く寝たんでしょ。」
「そう!、、ああ、普段もそんな感じ?」
はい。そんなやつです。ご迷惑おかけしました。もう一度、深く頭を下げた。
「雨乞い上手く行ったみたいですね。」
「まあ、偶然だろうけど。お袋が雨降ってきたからじじい迎えに行けって言われてまじかよって。」
「わかる。まじか、って思った。」せっかくの雨乞いだ。あめあめふれふれだぜ。
「じゃあ、じじい待たせてるんで。梶山さんち川向こうでしたっけ。」
二人は框で横向きに丸まって眠る遠藤に苦笑いし、小雨の中去って行った。
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