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松の木の話
昔々。
田んぼはひび割れ畑も枯れ果て井戸は干上がりみなが乾き飢えておりました。
小高い山の鎮守あとに残された松の木はこの村の人が大好きでした。鎮守の森が切り開かれても道祖神を敬い、ただの松の木の自分も敬ってくれました。なんとかしてあげたいと願うのは当然のことでした。
道祖神様が、ただの松のお前がその身を削るならと、田畑の神様から加護を松の木に賜りました。
松の幹の皮の剥がれたものを口にせよ
そう巫女さまの枕元に田畑の神様が告げると翌朝村人がやってきて松の幹の皮を拾い集めました。それからも松の木は、村人が飢えないように鳥や鼬に頼んでは皮を剥ぎ落とします。剥ぎとる皮の一枚も無くなり冬の寒さで枯れ果てることを道祖神様に詫びた翌朝、村人たちが松の幹に編んだ藁を幾重にも巻き付けました。松の木は優しい村人が大好きです。道祖神様も藁をまいて暖かく冬を越しました。
春祭りに松の木は注連縄を施され田んぼの松の木様と祀られました。道祖神様は、これはこれは田松様。ご立派、ご立派とからからと笑います。その夕暮れのことでした。見知らぬ人間が生えたばかりの皮を幹から乱暴に引き剥がすのです。松の木と仲の良い鳥たちが騒ぎますが人間には叶いません。騒ぎに気が付いた幼子もまた打ち据えられ儚くなりました。松の木は幼子の死が悲しく悔しくわんわんと大声で泣きました。
田畑の神の祭りに招かれていた姫神様は幼子を哀れむ田松に、新神には1つ加護を与えられるが望むなら御使いでもよい、と言いました。
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