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田松様。田松様。村で赤子が産まれました。小さな皮を一枚くださいませ。届けて参ります。田松様。田松様。田松様の枝先の雛は親鳥が狸に食われてしまいました。皮を一枚くださいませ。田松様。白蛇は冬は苦手です。藁の中に入れてください。お社は温かいですが藁の中は心地良いのです。田松様。田松様。白蛇は田松様の御使いで人の頃よりうんと楽しいのです。
田松様は白蛇が楽しいと笑うのが好きでした。道祖神様と白蛇と村人たちと田畑の神と朝晩を繰り返す日々を大切に想います。長雨が大神様の怒りでどうにもならず悔しくとも。みなとともにあればよいと。ですが姫神様はそうではありませんでした。
村の半分が水に浸かり、高台のお社に村人が集まりました。白蛇がせっせと蓄えた古い幹の皮を施します。白蛇は目を真っ赤に泣きはらしておりました。
白蛇は大嵐を止めるために姫神様の御子神へ輿入れするのです。田松様には仕えられなくなります。村から一歩も出たことのない白蛇には酷なことでした。
白蛇を誇りに想う。動けない我のために村のために姫神様と行くのは誉れぞ。
寂しさも不甲斐なさも直隠し、からからと田松様は笑います。
自慢の娘よ。白蛇は姫神様の御子に負けない自慢の娘。どれほど賢く役立つか存分に見せ、雨を退けるといい。
姫神様と連れ出つ白蛇を田松様は雨に打たれ顔を濡らしからりと笑いました。
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