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白蛇の話
昔々。まだ人の幼子だったころ。毎日が暑く、死ぬ前に冷たい水を飲みたいなぁと思っておりました。
村の巫女さまの夢枕に田畑を見下ろす一本松が現れたのはそんな時でした。
ゴワゴワした木片は土の匂いがしました。口にすると不思議なことに乾きが癒えお腹が膨れました。村は実りのない秋を冬を越えることができ、一本松は、村のご神木として祀られました。
春祭りの夕暮れのことでした。その松の木の皮を商人が無理やり剥がしていたのです。やめてと腕にしがみついても幼子ではどうにもなりませんでした。
気がつけば白蛇になっておりました。飢えも渇きもなく軽やかな躰です。動けない田松様に代わって白蛇は村の様子を見聞きしてお伝えしました。村は栄えていきました。やがて、田松様の隣にお社が建立され白蛇も一緒に祀られたのです。
ある年。梅雨時期を過ぎても雨は止まず川は溢れ村の半分が水に沈みました。白蛇は田松様にお暇を申し出ました。白蛇は大嵐を止めるために姫神様に喚ばれていたのです。
白蛇は田松様と離れ難く泣きました。けれど田松様はからからと笑うのです。
白蛇を誇りに想う。動けない我のために村のために姫神様と行くのは誉れぞ。
そうして白蛇は姫神様と天を駆け山をいくつも越えました。夜明け前の美しい池の畔で、暗い嵐の空を睨む金色の双眸と。池から昇る霧にふるりと力が湧き出しました。
雨を退けと祈る白蛇の紅い瞳は青く染まり、ますます祈りは強くなりました。
雨は止み、白蛇は精根尽きて天から落ちていきましたが怖くありませんでした。
あの美しい池と白龍様が白蛇を優しく受け止めると信じていたからです。
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