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よろよろと立ち上がってがきんちょに向かって歩き出す。じょれんをぷらぷらさせて気持ち威嚇してみよう。
「砂利土を退けてたの。です。」
「「なんで!」」
「なんでですか?」
「そこに楕円の穴があるでしょう?」
ちょいちょいとじょれんで手招きをする。人様の敷地内に不法侵入しないのは躾だ。偉いぞ。親を誉めよう。
じょれんを手放し、雨水升の蓋を持ち上げずらし中を覗かせる。
「この溝の砂利土が此処に溜まるの。そうなると雨水がたくさん入らない。それが困るのよ。んーん。うわぁ半分埋まってるかな。」
「半分!」
「半分ってのは真っ直ぐだよ!」
「ちげーよ!真ん中が半分だぞ!」
「あ、まあ、大体ね、大体。おおよそ。わかる?」
「わかります!」
てっちゃんが良いお返事をくれた。てっちゃんは四角顔で目が細い。ヒラメ顔だ。
「あの!」
「うん?あ、はい。なんですか。」
「あの!そうちゃんが!」
「そうちゃんが、またあれくださいって」
「ちがう。おれ言ってない!」
「えー言ったじゃん」
そうちゃんはいつも一歩後ろから様子を窺っていて、こうやって名指しされるとするするっと下がる。言ったじゃんそうちゃん!とゆうちゃんが繰り返し、てっちゃんがゆうちゃんを逃がさないように回り込んだ。
ずりずりと雨水升の蓋を戻す。危険回避大事。ふざけてここで転ぶなよがきんちょ。
「あの!あれ!あれください!」
そうちゃんの後ろに回ったゆうちゃんが、にかにかっと笑顔を全面に出してくりくりお目々をきらきらさせた。
「すべすべの!」
「コッペパン!」
「ちげーよ!木だよ!」
なるほど。
「その辺にポイしたらダメだからね??ね?」
「「「はい!」」」
「ありがとーございました!」
「「ありがとーございました!」」
『あゆみはゆうゆうコぉッペパンん』
『いづやまーコッペパンパン』
『ゆかばたたえよーれいほーコッペぇパーン』
歌声は遠くなっていく。
バークチップは2枚渡した。ゆうちゃんには今日もいらないと断られた。
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