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愉しい家族計画
「居候家族は退去したのでは?」
小林くんは今日は絶好調に不機嫌だった。暑いからなぁ。開け放した和室では陸羽が仕事をしている、たぶん。在宅ワークって傍目にはよくわからないよね。
「そうなんだよ、小林くん!いいかね、よく考えてみたまえ、謎はすでに解けているのだ。」ふはははは!と笑う辺りで、遮るようにギロリと睨まれたが恐くない。慣れているぜ!
「わたしは肩書きを手に入れたの。レンタルオフィスのオーナーよ!」
スカートの裾を軽く抓みくるくると回転したところで、舌打ちが聞こえた。
「よくもまぁ。これだからベテランニートはたちが悪い。」
「ベテランゆうな。」
サロンでいいんですね、と小林くんはさっさと上がり込んだ。玄関で騒いだからか様子を伺っていた陸羽と小林くんは儀礼的に会釈した。
「本日は河岸を変えて、ひやしあめとところてんです。」
「気の狂った取り合わせだ。」
「さっぱりと梅酢にしてみました。」
白の混ざる琉球硝子たれ鉢に涼やかな青小梅のところてん。薩摩切子の脚つきグラスと揃いの紫青の徳利にひやしあめ。布コースターは西陣織で攻めてみた。
「あ。一本箸がよかった?」
「知識だけは無駄にあるあたりがベテランですね。さっさと座りなさい。」はーい。
小林くんはところてんを綺麗に食べ、ひやしあめをお代わりしたあと、いつも通り書類を並べた。
「あれなんか増えてる。」
「はい。先物市場を少々扱ってみました。目利きは任せましたが、、継続しますか?」
「先物って何?待って待って。やっぱりいい。」
同じ轍は踏まない。説明されてわからないとわかるまで延々、延々と虐められる。ちっ、と舌打ちが聞こえた気がしたが、小林くんは真面目な表情のままだった。気のせいか。
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