りんご飴

1/2
前へ
/132ページ
次へ

りんご飴

ピーっと篠笛が高く長く鳴ったのを合図にカンツクカンカンツクと太鼓のふちから軽やかに始まって、ドンツクドン、カッ、ピーヒョラピーの音に囃子のよーいとーよーいーの子供たちの声が重なる。年に一度の秋季大祭。近所のお諏訪様(神社)まで子供たちが山車を引いて練り歩く。お盆が明けた週の日曜日に毎年やるようになったのは氏子(担ぎ手)が減り年二回の祭りを維持出来なくなってからだそうだ。 祭り、といっても神社に縁日がたつわけでもなく、神事の後は公民館で直会(なおらい)と、景品付きビンゴゲームと点数制カラオケ大会だ。参加しないけどね! 参加しないかわり、ではないけれど。玄関前で山車をまつ。ご祝儀(おひねり)を渡すのだ。真っ赤に咲く百日紅の脇には栃さんの姿が見えた。祭り囃子が気になるのかな。今夜はお招きしよう。お諏訪様にも稲荷様がいらっしゃるから先さんはそちらに招かれ留守なのかもしれない。 翡翠色の浴衣は黄色の百合柄でこの数年は今年で着納めかな、と思わずにはいられない派手さだ。髪はハーフアップを裏編み込みにし、残りは左側で高くくるりと纏め蜻蛉玉の簪をさした。足元はミュールだ。お向かいのおばあちゃんも道路まで出て待っている。今日はアロハなムームー姿。お盆に来ていた日本人離れしたお孫さんからのお土産だろうか。ムームーは一回着ると病みつきだよね。楽ちんだし、パジャマ感が無いからね。いいなあ。久しぶりにムームー着ようかなあ。とりあえず会釈しておこう。わたしは無害ですよー。 ご祝儀を渡すと子供たちは唄を披露する。厄除け息災、豊作、家内安全、大願成就、バリエーションに富む唄の一節を唱うのだがリクエストは受け付けてくれない。 揃いのはっぴ姿に手ぬぐい鉢巻き、女の子は目尻に紅をひき、男の子は腰にキセル入れを下げる。5歳から中学生を含め18人と中々多く今年は圧巻だ。お囃子はどんどん近づいてくる。殆どの家で唄を披露するので、公民館からお諏訪様まで1時間はかかるだろう。うちは最初の方なのでさほど待たない。 紅白の縄紐をちょんと掴むだけのチビッコを真ん中にした山車の先導に「ご苦労様です。お納めください。」と祝儀袋を渡した。去年も一昨年もこの男の子が先導だったなあ。慣れた手つきで腰前に下げた前掛けのポケットに収めると豊作祈願の唄を披露してくれた。 一昨年うちで子宝の唄を謡ったよね君。気遣いを覚えていい年頃だからな、気をつけないと婿に行けないぜ少年。豊作祈願は微妙すぎないかい?
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加