りんご飴

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さて、ここからがわたしの見せ場。 「はい、お口開けてー。」 製氷器で作ったフルーツカルピスの氷を子供たちの口に放り込むのだ。ツバメの親気分になれるやつ。まだまだ先は長いからね。途中で御茶休憩(ふるまい)もあるけど、まあそれはそれで。はいあーん。はい、あーんしてー。慣れた大きな子はガラスボールにスプーンと一緒に入れたカルピス(アイス)を1つ2つと口に入れガラスボールの中身を分け合う。あーんが通用するのは、 「せいちゃん、あーん」 「おれ、もう食べた。」 低学年までなんだよなぁ。せいちゃんと知らなかった去年はあーんって口開けたのに。つまんないわ。 「ゆうちゃん、あーん」 「オレ、イチゴがいい!」 イチゴか。ピンクね。はいどーぞー。 「みうもイチゴ!」はいはいどーぞー。 みうちゃんね、みうちゃんはピンクの括り紐が可愛いつり目のお嬢さん。小学生の女の子だ。 「はい、てっちゃん」オレンジでいいの? 「あーんでいい?」 ガラスボールを回さない気の利かない男の子はもてないからな。ガリガリ噛んでもう1個とかやってんじゃないよ君たち。 はにかみながら中学生の女の子たちは口を開けてくれた。もう1個どうぞー。オネーサンにしかそんな無防備になったらだめよー。また来春もラベンダーあげるからおいで。 「そうちゃんも、あーんして。」 「おれね、」 「うん?オレンジ?イチゴ?」グレープもあるよ? 「あーんしたい。」あん? 「オネーサン食べないの?」 ヘラリと笑って開いてない口にグレープ味を放り込んだ。 ピーヒャラトンテンツクテンピー祭り囃子が遠ざかる。山車も遠ざかる。お向かいのおばちゃんにぺこりと頭を下げ家に入る。 オネーサンがお祭りで食べたいのはりんご飴だけなんだ。 そうちゃん、ごめんなさい。
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