手慣れたナンパ

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気まずい。 がきんちょは身動ぎせずあたしを見ている。焦る。上手いこと、何か、話題が、 「し、東雲明かし出るって意味わかる?」 「知ってます!」 「こうか!」 「体育館の朝の会で歌うんだぞ!な、ゆうちゃん!」 「あれやっぱり校歌か。」 「しのって女の子の目が赤いんだよ」 「あかいめのーはいてたーおんなのこー」 「いいーじぃさんにつれられてー」 「「「いーっちゃーったー!」」」 ゆうちゃんまで上目遣いの得意顔。かわいいぞ、おい。でもなー。でもなぁ。でもさぁ、ねえ。なにを教えたらいいんだ。 「「こんにはー」」 「あ、こんにちは。」 ぺこりと女子中学生たちが会釈して行く。指定リュックがまだ大きくて、こちらも一年生かもしれない。 「こんにちは!」 「こんちにはー」 ゆうちゃんの返事に屈託なく猫背な少女も返す。その隣の髪を後ろで1つに結わえた少女もこんにちはと返している。 挨拶大事。素直な子ども大事。挨拶は基本の躾も大事。地域のみなさまを誉めよう。だけどいつも思うの。ここは登山道ではない。挨拶エンドレスしんどい。 「あの!オレとトモダチになってください!」 「おれも!そうちゃんも!」 「えーおかしいー。いいよー。」 「やったー!」 「いま!トモダチ記念でお花もらえます!」 「オレ貰うやつ、あげる!」 「おれのもー!なぁそうちゃん!」 そうちゃんがラベンダーを持つあたしに手を伸ばす。てっちゃんが横に並び、ゆうちゃんは後ずさる。 「あ、はい。どうぞ。」 「いえ!おれ一本でいいです!」 「おれも!」「オレも!」 バークチップもそうちゃんが最初に手を伸ばしたっけなぁ。 「あなたたちどうぞ。」 「え、いいんですか。」 「いいの。出来ればたくさんもらって。」 ちょっと待ってね、手に持つに不自由しない太さで束ねて麻紐で括ろう。 「ありがとうございます。」 「こちらこそ。よかった。」 じゃあね、と小さく片手をひらひらふる。会釈して歩き出す中学生を先導するように黄色い帽子もバイバイ!と去っていく。 よかった。 活動時間帯を変えよう。 ぱちん、ぱちん、ぱちん。 ぱちん、ぱちん、ぱちん。 そうちゃんが1番侮れない。
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