【最終章】

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――……残されたのは、私と如月、真一様とタカシさん。 最初に口を開いたのは、少し硬い表情をした真一様だ。 「悠」 「……はい」 久々に、彼の声で紡がれた自分の名。 それだけで涙が滲みそうになって、慌てて俯く。 「あの手紙はなんだ」 「……すみません」 「言い逃げは、駄目だろ」 「……はい」 真一様の言う、“手紙”。 それは、須桜邸を去る日に私が残した手紙のことだ。 最後だから何も思い残すことがないようにと、婉曲的ながらも思いの丈をぶちまけた代物である。 何を書いたか思い出して、いたたまれなくなった。 苦虫を噛み潰したような顔になる私に、真一様も仏頂面を向ける。 「ああいうことは、俺に直接言え」 「……言えません」 あんな恥ずかしいこと、本人に面と向かって言えるわけがない。ぶんぶんと首を横に振ると、真一様はむっと唇を引き結んでから滔々と話し始める。 「真一様、短い間ではありましたが本当にあり――」 「す、ストップです! お願いですからやめてくださいそれだけはご勘弁くださいっ!!」 何を言うかと思えば、私が書いた手紙の文言ではないか。 大慌てで彼に詰め寄り懇願すれば、「言うよな?」と一言。 ……数か月離れている間に、真一様が何だか腹黒くなった気がするのは私だけだろうか。 しかし、如月もタカシさんもいる中で赤面ものの手紙の内容を音読されるよりは断然マシなので、私は「はい」と渋々頷いた。
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