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【1章】ワケアリ御曹司
ジリリリリリ……
「……んん」
大音量で鳴り響く目覚まし時計。
布団から腕だけ出し、バシッと叩いて耳障りなその音を止める。
……眠い。眠いけれど、起きなきゃいけない。だって仕事がある。
気合を込めて起き上がった私は、瞼を開けたところで視界に入ってきた部屋の大きさに一瞬戸惑った。
そして。
「ああ、そうだった……」
寝ぼけた頭に鞭打ち記憶を探れば、納得の声が上がる。
さっさと立ち、ふわふわのベッドから降りて室内にある洗面所へ。冷水で勢いよく顔を洗い、両手で頬を軽くぱちんと挟み込んだ。
「うっし!」
やる気は十二分。
さて、行きますか。
クローゼットを開け、仕事用の服を取り出す。
それは、メンズ物のスーツ。
寝間着を脱いだ私は、キャミソールの上からくるりくるりと白いサラシを巻いていく。元々存在感の薄めな胸は、これでもはや板のよう。これぞ胸板。……いや、違うか。
残念な感じは拭えないが、気を取り直してパリッと糊のきいたワイシャツに袖を通し、ボタンを留めていく。
スーツのパンツをはいて、ベルトを締め。細めの真っ黒なネクタイをして、ジャケットを羽織る。
靴下をはいて、これまた男物の革靴に足を突っ込めば、準備は完了。
仕上げに手櫛で髪を適当に整え、私は鏡で自分の姿を確認した。
「うん、OK」
いざ、出勤だ。
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