6

1/2
前へ
/178ページ
次へ

6

《 World 》の中では、現実のようにNPC達が生活している。  買い物の途中でお喋りに夢中になってる奥様方や、忙しそうに働いている店員さん、ちょろちょろ走り回ってる子供達など。AI機能を搭載している彼らは、データの塊と思えないくらい人間らしく、生き生きしている。  それでもあまり緊張しないですむのは、彼らが《NPC》というくくりで纏められているからだろうか。 「あれかな。外国で日本人に会ったら、それだけでなんか親近感を覚えるっていう……。うーん、なんか違うかな?」  私は首を傾げて、まあいいか、と呟いた。それよりも、今は座り込んでも邪魔にならない所を探さなくちゃ。  公園や広場にはベンチや芝生が用意されていたけど、人がいっぱいだったんだよね。中には、道端で寝転がってる人もいたけど。  座り込むより回復量が高いらしいけど、道端はちょっとどうだろう。 「あ、あそこにも……って、あ」 「ぐぉっ」  がらがらがら、ぐしゃ。道端というか、通りで寝転がってた人プレイヤーを、踏み潰してゆく乗り合い馬車。  かなり消耗していたHPを更に削られた上に、馬車に乗ってる住民達から「こんな所で寝るなんて何考えてんだ」と罵倒されてる……。えーと。街の中で良かったね!(街の中では、たとえHPが無くなっても死ぬことはないのですよ)  自業自得だけどがっくりしてる戦士っぽいプレイヤーに、心の中で頑張れーと声援を送りながら、私は更に歩き続けた。  目指すはスキルを手に入れたあの小さな広場。あそこなら、誰もいないんじゃないかな? いないといいなー。  結果は、駄目でした。 「うーん、なんか楽しそうに洗濯してる……」  近所の住民らしきおば様方が井戸で洗濯中です。ううん、なんだか近寄ったらお喋りに引き込まれそうだなー。 「別の所探そうかな……」  小道を戻る私の横を、一人の少女が走り抜けた。現実なら、小学校の低学年というくらいの年頃。そんな小さな女の子は、両腕で紙袋を抱えて走ってゆく。  あの子は金髪だけど、奈緒も小さい頃はおかっぱだったなー。妹の幼い頃を思い出してつい見送っていると、女の子が抱える紙袋から何かがこぼれた。女の子は気付いていない。 「あ、ちょっと待ってー。なんか落ちたよー」  あわてて声をかけ、落ちた物を拾い上げる。オレンジに似た果物だった。 「ありがとう、お姉ちゃん」  果物を紙袋に入れてあげると、にこーって笑顔になってお礼を言われました。 可愛いなあ。素直にお礼が言えるのは、いい子だよね。 「もう落とさないように、気をつけてね」 「うん、気をつける。お姉ちゃん、ありがとー」  女の子を見送って、私も歩き出した。多分、ここみたいに小さな広場はたくさんあると思う。そんな場所を探してみよう。
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加