56人が本棚に入れています
本棚に追加
別の小道に入ってすぐのことだ。
「あ」
前を歩いていた老婦人が、腕にかけている籠から何かを落とし……って、たっ、卵っ!?
「ま、間に合った……っ」
咄嗟に滑り込むようにして、落ちた卵を二個ともキャッチしました。うわあ、びっくりした。瞬発力が高い獣人じゃなきゃ無理だったよー。
「あらあらまあまあ。どうもすみません。助かりましたわー」
「いえ、お気をつけて……」
のんびりおっとりしてる老婦人と別れて、また歩く。するとそこへ、果物を入れた籠を背負った男性が……。
なんだろう、嫌な予感がする。
「うおっとぉっ!」
「!」
やっぱり、と思いながら私は駆け出す。男性が何かに躓いたとたん、背中の籠から零れ落ちる果物。
注意してたおかげで地面に落ちる前に拾えた。果物に傷がつかずに済んですごく感謝されたけど……これって、なんなんだろ。
「なにかのイベント……クエスト、かなぁ?」
思い当たるのは、最初の女の子。あれで何かのクエストが発生したのかな。
落ちた物を拾ってあげるクエスト? なんだか地味だね。でも、別に困らないし、いいかな。
そんなふうに気楽に考えていた私は、大通りに出た瞬間に固まってしまった。 そこは、急斜面の坂道だった。私の視線の先には、台車を引いたロバを連れた老人が、長い坂道を登ってゆく姿。
台車には、山積みにされた野菜や果物。そのどれもが丸い形なのは、やはり目的がそれだからなのか。
その時だ。固まった私の耳に何かの音楽が聞こえてきて、目の前にシステムからの文が現れた。
――クエスト《街の便利屋さん、その5》
落ちた物を全て拾ってあげよう!
す、全てって……。
ひきつるしかない私の前で、台車がバランスを崩し山積みの荷物が急斜面を転がってくる。えっ、ちょっ、ちょっと待って!
――スタート!
「流石に無理だって――っ!!」
雪崩を起こして転がってくる荷物を前に、私の絶叫が響き渡った。
――数十分後。商店街の路地裏で、私は木箱の隙間に隠れるように座っていた。
……はい、無理でした。 ごろんごろん転がってくる野菜やら果物やら。何故か最後には樽まで転がってきましたよ。あれをどうやって一人で捌けと。
座り込んだまま、ゲーム内の交流掲示板を調べたところ、《街の便利屋さん》シリーズは七つまで発見されているらしい。
たとえ失敗しても、条件さえ揃えば何度でも挑戦できる親切設定。……まあ、クエストの内容が厳しいけど。
「あー、でも、あれって人数いたら簡単なのかも。パーティー用なのかな」
オンラインなんだから、パーティーで受けるのが前提条件なのかも知れない。 そうすると、ソロ予定の私は……。
「……まず、瞬発力を鍛えないと。ダッシュ訓練?反復横跳びもいいかも。ああ、あと、拾った物を入れておく籠も必要かな……」
とことん鍛えてクリアしてみせるに決まってるじゃないですか!!
そして私は、毎日ダッシュ訓練をすることにしたのだった。訓練、大事だよね?
最初のコメントを投稿しよう!