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別の小道に入ってすぐのことだ。 「あ」  前を歩いていた老婦人が、腕にかけている籠から何かを落とし……って、たっ、卵っ!? 「ま、間に合った……っ」  咄嗟に滑り込むようにして、落ちた卵を二個ともキャッチしました。うわあ、びっくりした。瞬発力が高い獣人じゃなきゃ無理だったよー。 「あらあらまあまあ。どうもすみません。助かりましたわー」 「いえ、お気をつけて……」  のんびりおっとりしてる老婦人と別れて、また歩く。するとそこへ、果物を入れた籠を背負った男性が……。  なんだろう、嫌な予感がする。 「うおっとぉっ!」 「!」  やっぱり、と思いながら私は駆け出す。男性が何かに躓いたとたん、背中の籠から零れ落ちる果物。  注意してたおかげで地面に落ちる前に拾えた。果物に傷がつかずに済んですごく感謝されたけど……これって、なんなんだろ。 「なにかのイベント……クエスト、かなぁ?」  思い当たるのは、最初の女の子。あれで何かのクエストが発生したのかな。  落ちた物を拾ってあげるクエスト? なんだか地味だね。でも、別に困らないし、いいかな。  そんなふうに気楽に考えていた私は、大通りに出た瞬間に固まってしまった。 そこは、急斜面の坂道だった。私の視線の先には、台車を引いたロバを連れた老人が、長い坂道を登ってゆく姿。  台車には、山積みにされた野菜や果物。そのどれもが丸い形なのは、やはり目的がそれだからなのか。  その時だ。固まった私の耳に何かの音楽が聞こえてきて、目の前にシステムからの文が現れた。  ――クエスト《街の便利屋さん、その5》  落ちた物を全て拾ってあげよう!  す、全てって……。  ひきつるしかない私の前で、台車がバランスを崩し山積みの荷物が急斜面を転がってくる。えっ、ちょっ、ちょっと待って!  ――スタート! 「流石に無理だって――っ!!」  雪崩を起こして転がってくる荷物を前に、私の絶叫が響き渡った。  ――数十分後。商店街の路地裏で、私は木箱の隙間に隠れるように座っていた。  ……はい、無理でした。 ごろんごろん転がってくる野菜やら果物やら。何故か最後には樽まで転がってきましたよ。あれをどうやって一人で捌けと。  座り込んだまま、ゲーム内の交流掲示板を調べたところ、《街の便利屋さん》シリーズは七つまで発見されているらしい。  たとえ失敗しても、条件さえ揃えば何度でも挑戦できる親切設定。……まあ、クエストの内容が厳しいけど。 「あー、でも、あれって人数いたら簡単なのかも。パーティー用なのかな」  オンラインなんだから、パーティーで受けるのが前提条件なのかも知れない。 そうすると、ソロ予定の私は……。 「……まず、瞬発力を鍛えないと。ダッシュ訓練?反復横跳びもいいかも。ああ、あと、拾った物を入れておく籠も必要かな……」  とことん鍛えてクリアしてみせるに決まってるじゃないですか!!  そして私は、毎日ダッシュ訓練をすることにしたのだった。訓練、大事だよね?
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