55人が本棚に入れています
本棚に追加
8
βテスト開始から数日がたち、私は夏期休暇を活用してソロプレイを満喫していた。
「お姉ちゃん、新しいゲームはどう?」
朝食の片付けをしていると、今日も朝から部活らしい奈緒が尋ねてきた。毎日暑いのに、頑張ってるなあと感心してしまう。
この炎天下で陸上なんて、私には無理。きっと溶ける。人体構造上不可能でも、気持ち的には。
「うーん。そうだね、楽しいよ。でも、近くに他の人プレイヤーがいるとやっぱり緊張しちゃうかな」
「お姉ちゃん……」
何か言いたげな声に目を向けると、奈緒は可愛いと評判の顔に、困ったような悩んでるような複雑な表情を浮かべていた。
そんな顔をしていても可愛いのは、雰囲気に華があるからだと思う。顔の造りは似てる筈なのに私は地味で目立たないしね。いや、その方がいいんだけど。
なんて考えていると、奈緒が言葉を選びながら話しだした。
「人見知りのお姉ちゃんが、オンラインをプレイするなんて頑張ってるよね。でも、ほら。せっかくのオンラインなんだから、もっとこう、オンラインらしく遊んでみたらどうかな?」
「オンラインらしく……」「そう、オンラインらしく!」
熱意の籠もった眼差しを向けられる。うーん。オンラインらしく……。
「そうだよね、せっかくだしね」
「うん、そうだよお姉ちゃん!」
「オンラインならではを楽しまないとね」
「うんうん!」
「でも流石に、トップランカーを目指すのは無理かな」
「いやいや、目指すならトップだよ。って、ちっがーう!」
うんうん、と頷いていた奈緒は握りしめた両手を上下に振って否定する。
見事なノリツッコミをありがとう。でもね。
「奈緒? 時間わかってる?」
「え? あーっ!?」
遅刻ー! と叫んで奈緒はダッシュで出掛けていった。流石陸上部、私のキャラに教えて欲しい走りだ。 それを見送って、私はぽつりと呟く。
「オンラインらしく、かあ……」
奈緒が言いたいことは、わかっていたけど……うーん……。
奈緒の言葉を胸のうちで転がしながら、私は家事をすませて《 World 》の世界へとダイブした。
最初のコメントを投稿しよう!