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《 World 》の空は、今日も青く澄み渡っている。 でも、いつも快晴というわけではなくて、曇りの日もあれば、どしゃ降りの雨の日もあった。  雨の日は視界が悪くなるし、火系の魔法が使用不可になる。だけど、悪いことばかりじゃない。  カエルなどのレアなモンスターが出たり、雨の日限定のクエストが出たりしたので、雨を楽しみにしてるプレイヤーもいるらしい。 私も、雨あがりに出た三重の虹がとても綺麗だったから、少し楽しみにしていたりする。 「いらっしゃいませ――って、なんだ、あんたなの」 「おはよう、リーザ」  雑貨屋に入った私は、ツンデレ嬢、リーザの出迎えに片手をあげて挨拶した。  《白の都》には全部で五つの店がある。  時計台広場にはプレイヤー達が出している露店がひしめいているけど、それを別にするとかなり少ない。  それは、まだ『準備中』の札をかけている店が多いからで、たぶん製品版から増えるんじゃないかな。  「今日はなんの用よ」 「えーと、いつものを……」 「まだ諦めてないの? 毎日よくやるわね」  素っ気なく問いかけられた私が店の奥に目を向けながら答えると、リーザは呆れ顔で頭を振った。その動きに合わせてポニーテールの蜂蜜色の髪がさらりと揺れる。  ……まだデレが無くてキツイです、リーザちゃん。  リーザは奈緒と同じで、美人というより可愛いタイプの美少女だ。背もちっこくて、笑うとものすごく可愛い。  ただ、仲良くなるとデレの前にツンが強化されるらしく、毎日会ってるうちに冷たさが増してしまった。  可愛い女の子に冷たくされるのって、かなり堪えます……。  私は曖昧に笑みを返してカウンターの裏に回った。 リーザの雑貨屋クラウンは、ロープや松明などの“雑貨”を主に売る店である。  こじんまりとした小さな店だけど、壁には商品が展示された棚が並び、赤い石畳の床にはシャベルやスコップ等が入った木箱が置かれ、天井からは干した果物や用途がわからない物が吊り下がっているという有様で、雑貨屋のイメージ通りにごちゃごちゃと物があふれかえっている。  でも、静かな雰囲気のせいか居心地が良くて、私は気に入っているんだけどね。  カウンターの裏には、奥に続くドアと小さな椅子、そして伝票や算盤といったお店の必需品の他に、金庫が置かれている。二つも。  床にじかに置かれた金庫の方に近づいて、しゃがみこむ。インベントリから取り出したのは、アイテム《盗賊七つ道具》のひとつ《トラップツール》だ。  つまり、私は店番公認で、錆付いた金庫の鍵開けに挑戦しているのである。  ……なんだろう、なにかとてつもなく道を踏み外している気がする。気のせいかな……。  どうしてこうなったのかを説明すると、話は初日にさかのぼる。  例の「お化け屋敷」が気になった私は、再ログイン後、スキル屋でスキル【鍵開け】を、この雑貨屋でアイテム《トラップツール》を購入した。しかし、そこで問題が発生した。 「……【鍵開け】のスキルって、どうやってあげればいいの?」  その呟きを耳にとめたリーザが、カウンターの裏に私を呼び。 「これ、おじいちゃん――この店の店主なんだけど、そのおじいちゃんが鍵を無くした金庫なの。鍵開けの練習で、開けてみる? 開けられるなら、だけど」  ――クエスト《雑貨屋店主のお宝》発生しました。 選択可能です。受けますか?  いつものシステム文を読み、私は即座に答えた。 「ぜひやらせて下さい!」  ――そして今に至る。 「うー。ここをこうして……無理かあ。しかし、こんな技術だして問題にならないのかな。まあ、こんな手動の鍵なんて、今じゃマニアな趣味の人しか使ってないからいいのかな……」  ぶつぶつ、ぶつぶつ。上手くいかない苛立ちを独り言で紛らわしてスキルを使い続ける。今日で三日めだけど、開く気配もない。  【鍵開け】のレベルは順調に上がってるから、それでもいい。いいけど、どうせなら開けてみたいし。頑張ってみよう。  だけど、ちまちましたのを続けていたら疲れるわけで、今日はこれくらいにして別のことをやることにした。 「ねえ、リーザ」 「馴れ馴れしいわね。呼び捨てにしないでよ」 「……リーザちゃん。あのさ、近くに珍しい草とか生えてるとこ知らない? ダンデリードよりちょっとだけ強いモンスターがいるとことか」  リーザは、「ちゃんは止めて」と嫌がった後で、教えてくれた。 「そうねー。ここの近くでなら、西にある鉱山跡の洞窟とかかしら」 「洞窟!? それもっと詳しく!」  新しい場所の情報に私が目を輝かせて食い付くと、リーザは真剣な表情になった。 「いい? 一人で鉱山跡に入っちゃダメよ? 手前にいるモンスターとかなら大丈夫だけど、中にいるのは一人じゃかなわないからね? べ、別に心配してるわけじゃないけど、注意しとくわ!」  リーザがデレた――!?  あまりの驚きに呆然としてしまう。最近、「本当はツンデレじゃなくてただ冷たいだけでは?」とか考えてただけに驚きもひとしおだ。  やっぱりツンデレなんだね! と、なんだか妙に感激しながら私は鉱山跡を目指して街をでた。
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