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閑話:???小話
薄暗い部屋で、彼は身を起こした。
窓際に置かれた時計を眺め、ゆっくりと立ち上がった彼は、財布を手に取る。長時間のログインで、ひどく喉が渇いていた。
「にゃあ」
足元にじゃれつく黒猫を構ってやりながら冷蔵庫を開けたが、彼が覚えていた通りミネラルウォーターは切れていた。
仕方なく彼はコンビニへと出かける。
夜だというのに外は蒸し暑く、自然と早足となる。通り過ぎる人々が彼を見て一瞬目を見張り、驚いたように見つめるが、彼にとってはいつもの事なので気にならない。
塾帰りらしい女子高生が、彼を見つめささやく。
「ねえ、見た? あの人すっごい綺麗! 外国人なのかな」
「うん、見た見た! 美形だったね! ハーフなのかもよ? 髪は黒かったし……あの紫の瞳は本物なのかな?」
「どっちでもいいよ。とにかくかっこいい! 大学生くらいかな。声かけてみない?」
「えー? ちょっと無謀じゃない?」
彼女達がそんな会話をしている間に、彼はコンビニに入り、涼しい室内に満足げな微笑みを浮かべていた。
まだ若い女性店員が「いらっしゃいませ」と言いかけたままうっとり見惚れているのを無視して、彼はドリンクコーナーに歩く。ミネラルウォーターを取ろうとした手が、ふと止まった。
視線の先にあるのは、ミニストラップ付きの炭酸水。焦げ茶色をした垂れ耳わんこのストラップを数瞬眺めると、彼はくすりと笑ってその炭酸水を手に取った。
「ふわふわだったな」
小さくつぶやいた彼の紫の瞳は、誰かを思い出すかのように優しく細められていた。
長かった夏は終わり、暦の上では秋となる。
新作VRMMORPG《World》が正式に発売開始となるのは、風が涼しくなった頃だろう。
楽しみだな、と内心でつぶやいて、彼はレジに向かったのだった。
fin?
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