閑話:人見知りの姉をもつ妹は心配性

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閑話:人見知りの姉をもつ妹は心配性

神月理央と奈緒は仲の良い姉妹である。  人見知りだが優しい姉と少しドジだが明るい妹は、今夜も夕食を一緒にとりながら、他愛ない会話に花を咲かせる。  奈緒が今朝の遅刻の一件を口にした時だ。 「あ、そういえばね。今日、初めて《 World 》で友達が出来たんだよー」  ふと思い出したように告げた姉の言葉に、奈緒は驚き、そして笑顔を浮かべた。 「ほんと!? やったね、お姉ちゃん!」  えへへ、と照れる理央は、奈緒の二つ上で大学生なのだが、子供の頃から人見知りが激しくなかなか友人がつくれないタイプだった。  一度うちとけると長く友人関係が続くことから、それなりに友達はいるのだが、今のままでは社会に出た時に困るのでは、と奈緒は密かに心配していた。  だからこそ、オフラインだけじゃなくオンラインもプレイして、少しでも人見知りを治せないかと勧めていたのだった。  もちろん、オンラインにも問題はある。  マナーが悪い者に出会って人見知りが激しくなる可能性もあったが、理央がプレイしている新作ゲームは、今時珍しい初心者対象のものだ。対人バトルも無いし規制も厳しい。  保護者つきなら小学生でもプレイが可能な程なので、理央がテスターに受からなければ、製品版を買って勧めてみようかと考えていたくらいだ。  しかし、奈緒はそんな心配をしていたことは口にせず、嬉しそうな理央に自然と笑みを浮かべながら尋ねた。 「それで? 相手はどんな人? 名前は? 年は?」「ちょっと待って、ひとつづつね? えーと、地龍族っていう種族でね、鍛治職なの。ハンマー使い」 「ふんふん。お姉ちゃんは短剣だもんね、火力高いと助かるよね」 「それでね、ちょっと口が悪いんだけど、照れ屋なだけで、意外と世話焼きで親切なの」 「うんうん、お姉ちゃんはぼんやりしてるもんね。しっかりと世話を焼いてもらってね」 「今度、武器を作ってもらう約束なんだ。あ、名前はトオルって言って、奈緒のひとつ上の男の子なんだけどね」 「へー、あたしのひとつ上の……男の、子……?」  それまでにこやかに話しを聞いていた奈緒が、ぴたりと口をつぐんだ。  手に持つ箸を置く奈緒の姿に、理央は首を傾げる。 「奈緒? どうかした?」「……お姉ちゃん」  奈緒はゆっくりと両の手を組み合わせ、低い声で告げた。 「第一回、神月家姉妹会議を始めます」 「ええっ!? なんで!?」  その夜、理央はトオルとの事をあらいざらい奈緒に話し、決してナンパでは無いことを納得してもらい、くれぐれもリアルの情報を漏らさないように何度も念を押されて、ようやく解放された。  頼りない姉を持つと、妹は心配が絶えないのである。
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