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私が金銭問題的な事情でカエル狩りの鬼と化しているうちに、雨足が弱くなってきた。まだ【カエルのガマ油】は五つ揃っていないのに。  雨が上がる兆候に、少し焦って辺りを見渡すと。 「きゃーっ!! ユキ兄! ユキ兄はやく助けてーっ!!」 「さやか!!」  目の前を、女の子を抱き上げたカエルが通りかかった。  女の子はどう見ても小学生程度の年齢で、淡い緑色の髪に白い花飾りを飾り、華奢な身体に白のワンピースに似たローブを纏っている。  白い衣装の女の子と、彼女をお姫様だっこしているカエル。  身体のサイズ的にも一応合っていて、一見すると赤絨毯を歩く二人に見えなくも……いやいや、ないな、うん。いいとこお姫様を攫う魔王の手先Eかな。どちらにしてもロリの冠詞がつくけど。 「げこっ!」  つい、右手を振ってカエルに一撃を与えてしまった。そのとたん、一声鳴いてカエルは光の粒となる。おそらく、ギリギリまでダメージを受けていたのだろう。  ……ほ、他のプレイヤーの獲物、横から盗っちゃった。 「さやか、大丈夫か?」 「うわーん、ユキ兄遅いーっ!! ビックプリンパフェ奢ってくれなきゃ許さないー!」 「わかったわかった、奢ってやる」 「わーい」  私がショックで固まっている間に、女の子は戦士っぽい格好の男性に助け起こされていた。二人に視線を向けられ、心臓が跳ね上がる。 「あ、えっと、その」 「ありがとうお姉ちゃん!」  どう謝ろうかと狼狽えていると、女の子に満面の笑顔でお礼を言われた。あれ?  私の戸惑いに気付かずに、青年の方も笑みを浮かべて感謝を口にする。 「俺からもお礼を言わせて下さい。姪を助けてもらって、本当にありがとうございます」 「え? えっと、でも、カエルを倒してしまって……」 「ああ、それは気にしないで下さい。俺の足じゃ、多分追い付けなかっただろうし」 「ユキ兄、鈍足だもんね」「仕方ないだろー? 種族的に素早さが伸びにくいんだから」  言い合う二人には、本当にカエルを盗られた怒りは見えず、私は胸を撫で下ろした。奈緒から、他のプレイヤーの獲物をとるのはマナー違反だ、と聞いていたけど、今回は良かったらしい。  落ち着いて二人を見てみると、女の子――さやかちゃんは、妖精族らしく背中に透明な羽が生えていた。  青年の方は、赤い髪に隠されている額に二つの角が見えるところから、鬼族だとわかる。  姪だと言っていたけど、リアルで親戚なのかな?  私がそれを尋ねかけた時、さやかちゃんが空を見上げた。 「あ、――見て!」  指し示す先を辿ると、先ほどまでの曇天はどこかへ去り、目に痛いほどの青空が広がっていた。そこにかかる三つの虹に、あちこちから歓声が上がる。 「キレーだねー」 「そうだね」 「……うん。本当に綺麗」  二人の言葉に同意して、私も笑顔を浮かべた。  雨上がりの虹は、何度見てもやっぱり綺麗だった。 その後、二人と別れた私は、周囲にカエルがいなくなっていることに気付いた。  そ、そうだよ! 雨が上がったらカエルはいなくなっちゃうんだった! 「あ、あと一つだったのに……」  がっくりと肩を落とし、イベントリを開いてアイテムを調べた私は、目を丸くした。  【カエルのガマ油】が、五つある。  そうか、と私は呟いた。 「さっきのカエルで揃ったんだ……」  これでクエストを達成できる。  雨上がりの虹の下、他のプレイヤー達と共に、私も足取り軽く《白の都》へと帰ったのだった。
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