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13
賑やかな市場に展開された、半球体のバトルフィールド。
透明なバリアの中、長弓を手にした和風美人と大斧を構える小柄な吸血鬼の少女が向かい合っている。
いきなり始まった弓使いの与一さんと斧使いのマリアロッテちゃんの決闘を、私はエルフ君と一緒に観戦していた。
オンライン初心者の私にとっては、初めて目にするプレイヤー同士の戦いである。なんだか成り行きで決闘の原因になってしまい申し訳ない気はするけど、やっぱり興味深い。
《審判》が戦闘開始を告げるのを、緊張と好奇心がない交ぜになった気持ちで聞いたのだった。
――開始直後に仕掛けたのは、与一さんだった。
堂に入ったしぐさで与一さんが長弓を構えると、引き絞った弦の間に光の矢が現れる。淡い光を帯びた長弓は空へと向けられ、一筋の閃光が放たれた。
青い光がドームの天井近くまで登り花火のようにふっと掻き消えたかと思うと、次の瞬間、何十発もの光の矢となりマリアロッテちゃんに襲い掛かる。
ひとつふたつと光が瞬くたびに、爆裂音が轟く。
一閃二閃と長弓から青い光が発射されるたびに、光の雨がふりそそぐ。
次々と地面に落ちて小規模な爆発をおこすその光景は、弓矢での攻撃というより、むしろ爆撃だ。
初っぱなから容赦の無い攻撃に私は思わず呻いた。
「うわ、すごいね……私だったらあれは耐えられないな。たぶん足を止めたらそこで終わりになっちゃうと思う」
「高位の弓スキルだから確かに威力は凄いね。でも、別に避けるだけが防御じゃないよ。――ほら」
エルフ君が爆撃を受けているマリアロッテちゃんを示す。
吸血鬼の少女はその攻撃を避けるのでは無く、頭上にかざした大斧を振り回すことで矢を弾き防御していた。
武器を盾がわりに使うことが出来るのは知っていたけど、あの大斧を軽々と振り回せる腕力が凄い。
ただしノーダメージとはいかないようで、少しずつマリアロッテちゃんのHPバーは減少し続けている。
「ノーダメージって訳じゃないんだね。あのままだと一方的にやられちゃうんじゃないかな」
「そうだね。武器でガードするのは盾スキルの応用であって、本来の使い方じゃないからね。それに隙だらけだし」
「え? ――うわ」
隙だらけ、の意味はすぐにわかった。
マリアロッテちゃんは、“頭上に”武器を掲げて防御しているわけで――つまり。
「あらあら。女の子は、お腹を大切にしないといけないのよ?」
小首を傾げて微笑みながら、与一さんが長弓を水平に構える。新たに生み出された光の矢は目に留まらぬ速さで放たれた。
一瞬の閃き。
マリアロッテちゃんがくぐもった呻き声と共に地面に転がる。それが与一さんの矢によるものだと気づく前に、続けざまに放たれた光の矢が小柄な吸血鬼の少女の身体に突き刺さっていた。
よ、容赦無さすぎて正直怖いです、与一さん……
「ゆ、弓って強いんだね……」
私のドン引きぶりに気づかずに、エルフ君はそうだね、と頷いた。
「弓のような飛び道具を相手にするなら間合いを詰めないと。普通の弓ならともかく、彼女の弓は特別だしね」
「特別?」
「気付かない? 彼女の弓は、矢を必要としないんだよ」
「――あ」
エルフ君の言わんとすることに気付き、私は遅まきながら与一さんの持つ弓の有利さを悟った。
与一さんの弓は弦を引くだけで光の矢が現れる。いちいち矢をつがえる手間が無いのは、地味だけどすごく便利だ。何故なら、連続して射てるから。
――相手に距離を縮めさせることを許さずに済む。
「それは……接近戦のプレイヤーにとって、かなりやりにくい相手だね」
「そうだね。――お姉さんならどう対処する?」
何気ない口調で問いかけられて、私は考え込んだ。 ――やっぱり、足を使ってなんとかするしかないかなあ。
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