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密集する建物の隙間を縫ってつくられたような、小さな広場。プレイヤーも、NPCノンプレイヤーキャラクターも居ないそこでやっと落ち着けた私は、自身のキャラを観察する余裕が持てた。
着ているものは、初心者用の装備、布の服。服には何種類かのデザインがあって、私が選んだのはスタンダードタイプ。
上は木綿っぽいシャツと茶色のベスト、下は茶色のズボンと編み上げブーツの、どちらかというと男性的な組み合わせだ。
いや、性別は変更してないんだけどね。スカートで冒険って、なんか違う気がするんだよ。たとえ中が見えないようにシステム管理されてても。
そして、特筆すべきは!
「うふふふふー、わーい、ふわふわー」
頭の横に垂れ下がる、私の耳。抜群の手触りを提供してくれるそれは、そう、何を隠そう犬耳なのだ!
うわああ、ふわふわ気持ち良い!
《 World 》はキャラクターの種族が選択できるゲームだった。それはβテストの段階でかなりの豊富さを見せつけ、どの種族になろうかと悩める贅沢さを与えるものであった。
そして私が悩み抜いた末に選んだのが、これ。
茶色の垂れ耳とふさふさ尻尾の犬系獣人……垂れ耳わんこなのだ。わーい。
本当は、自分以外のわんこ獣人を愛でたいところだけど、ソロプレイの予定だし、知り合いいないし、無理だろうな。
狼系とどっちにしようか悩んだけど、私のキャラクターはリアルを反映させて地味めなので似合わなかったのだよ。派手になんてして目立つの嫌だし。
ショートの髪はリアルより少し明るい茶色、目は深い緑。全体的に細身で、元の体に近くしてある。
……胸とウエストに修正はかけたけど。いいじゃないか、それぐらい!
「いや、気にしないでおこう。ここにはリアルの知り合いはいないんだし。うん」
友人達も、このゲームのテスターに選ばれていなかったし、問題は無い。……筈だ。うん。
何かのフラグを立ててしまった気がしたが、あえて無視する。それよりも、さっき習ったマップ機能とかを出しておきたい。ここ、広いしね。
教わった通りに「ウィンドウ、オープン」と考えると、目の前にステータス画面が展開された。私のキャラクターの名前、ステータス、その他様々な情報が記載されている。薄いブルーの半透明な物だけど、開く時は周囲を気にした方がいいかな。ウィンドウが邪魔で、うっかりモンスターにやられちゃいました、なんてことになったら困るしね。
ウィンドウの一番下にある【オプション】の部分をチェックして開き、マップ機能をオンにした時。
「じゃあ、これから一緒に狩りに行こーぜ」
「うん、いいねー」
「あ、お店寄りたいー」
静かな小道に響いた声を聞いて、私は慌ててウィンドウを消した。誰か、おそらくプレイヤーが、ここに近づいている。
別に、悪い事なんてしてないのだから、堂々としてればいいんだってわかっている。でも。
βテスト初日、こんな人気の無い場所に一人で居るプレイヤーなんて、ちょっと怪しくないだろうか?
たとえ怪しまれなくても、声をかけられる可能性はある。そう思った私は咄嗟に隠れることにした。まだ人ごみで受けた精神的ダメージが回復してないしね。
建物の隙間に入り込み、じっと身を潜める私に気付く事無く、通り過ぎるプレイヤー達。NPCは頭の上に名前が表示されているので、区別がつきやすい。
自分でもちょっと自意識過剰だなーと思いながら彼らを見送り、姿が見えなくなってからほっと息をついた。その瞬間に鳴り響く何かの音楽。
――スキル【かくれんぼ】、取得しました。
……あれえ?
私、街から一歩も出ないまま、何かのスキルをゲットしちゃったみたいですよ?
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