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何処で──間違えたのだろう。
最近よく、そんなことを考える。
血の、臭いがした。
薄暗い夜の路地裏を、淡い月の光がぼんやり映し出す。照らし出された路地裏では、まだ真新しい血が石畳の地面を赤黒く染めていた。
その上を、今一人の青年が歩いていた。墨を塗りたくったような黒い髪に、黒いコート。闇の中で青年のその緑がかった瞳の色だけが静かに揺れている。
血は、まだ奥まで続いていた。
青年が少し歩を進めると、すぐにその血の主が見えてくる。人形のように虚ろな目を向けて倒れているのは、どうやら男性のようだった。分かるのはそれだけだ。酷く血に塗れているせいで、男性の年齢や服装すらも定かじゃない。
男の息がないことを確認して、青年はそっとため息を吐く。
凶器は刃物らしい。男が刺されている箇所は三か所だった。逃げられないように最初は足、次に助けを呼ばれないように喉。最後に胸を突かれたといった所だろうか。
人間は案外、そう簡単に死なないし死ねない。男は胸を突かれた後も何十秒かは生きていて、助けを求めてここまで這って来たのだろう。
近頃、巷には「死神」と呼ばれる殺人鬼が出没していた。
被害は分かっているだけで十件を超える。被害者の共通点は、全員胸を突かれて殺されていること。それと、死体から財布が抜き取られていることだ。このことから、物取りのための犯行だと言われているが、犯人はまだ捕まっていない。
人々はこれに怯えきっていて、近頃の夜の街には一切と言っていい程人の姿が見えなかった。
「……これはまた、派手にやったな……」
呟いた青年の後ろから、水の跳ねるような音と共に、足音が響く。
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