繰り人形の間違え探し

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 家に帰って暫くは、人に隠れて少女と一緒に暮らしていた。  その間、ロイドが少女に教えられたのは精々身を守る為のナイフ術ぐらいのものだ。だって、生まれてから殺すことしかしてこなかったロイドに教えられることなんて他になかった。  ロイドが間違いを何度正しても、少女はロイドを「おとーさん」と呼び続けた。  ただ、ロイドの方から少女を呼んだことは一度もない。  少女には最初からずっと名前がなかった。 「じゃあ、おとーさんがつけてよ、名前」  そう言って笑った少女の願いを、ロイドは断った。  ロイドは少女の本当の父親にはなれない。手を離したのは、ロイドの方からだった。  殺し屋の自分といるよりいいと思って、ロイドはこっそりと少女の引き取り手を探してそこに預けることにした。  少女を引き取ったのは、人の好さそうな、小さな屋敷に住む夫婦だった。ロイドは自分の誤った選択に蹴りをつけて、これでもう大丈夫だろうとしばらくそれを忘れていた。  でも、現実はそんなに甘くない。  次に会った時、少女は引き取り手だった夫婦を殺した後だった。  今思えば人の好さそうに見えた夫婦は、元から少女を利用するつもりで引き取ったのかもしれない。  そこで少女がどんな扱いを受けたかは想像で推し量るしかない。結果的に、少女は自分が生きるために夫婦を殺すことを選んだ。  ロイドが次に会った時にはすでに、少女はもう通り魔のようなことを始めていた。  何処で、間違えただろう。  つい、考えてしまう。間違っていたと言うなら、少女を生かしてしまった時点できっと間違いだった。  人は結局、知っている選択しか選べない。  少女が殺すという選択肢しか選べなかったのは、殺すしか能のないロイドと一緒に過ごしていたせいだ。少女が殺す時に胸を刺すのは、ロイドが経営者を殺した時のことを覚えているからなんだろう。  少女に考えうる最も最悪の結末を与えてしまったのは、紛れもなくロイド自身だった。
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