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第181話 探り合いと騙し合い
アクアマリンは美少女ではないが、それなりに容姿は整っている。王族や上位貴族は、美しい妻を娶り、見目麗しい婿を迎えるのが当たり前だ。世界は容姿が全てではないが、外見により他人からの評価が左右されるのも現実だった。だからこそ見た目の良い子孫を残すことは、家を存続させる一助でもあった。
第一王女として、いつか有力な貴族か他国の王族に嫁ぐ未来は承知している。それが王女の使い道として正しいことも理解していた。この教育から勘違いが生まれる。
大国の王族で第一王女という肩書きが、彼女の自意識を肥大させ増長させたのだ。誰もが自分を求めるだろう。他国の有力貴族ならば、ベリル国の王女を欲しがるに違いない。ならば私は選ぶ側だ……そう考えた。
近隣の人間が治める国ならば、その理論は通用しただろう。だがメフィストには通用しない。
「このような見た目の皮一枚で、よくもまあここまで驕ったものです。見苦しさに感心しますよ」
ヒビの入った王女の自尊心を粉々に砕き、メフィストは整った顔で嘲笑した。辞退された時点で素直に諦めればよかったのだ。結婚したいと願い出るならともかく、結婚すると我が侭を振りかざした時点で、見限られていた。
「陛下、アゼリア姫。お二方の婚儀の準備もございますので、国に戻ってはいかがでしょう」
「ふむ。そうだな、準備をしないと」
アゼリアとの婚礼の支度と言われれば、イヴリースが反対するはずはない。肩に乗せたマクシミリアンをそのままに、アゼリアを抱いたまま立ち上がった。
「ふ……くくくっ、お見事だ」
ベリル国王が笑ったことで、彼に視線が集中する。ぺちぺちと腕を叩いて合図され、イヴリースは渋々アゼリアを下ろした。だが腰に手を回すのは忘れない。
「お、お父様っ!」
何とかしてくれと泣きつく娘に、ベリル国王は一言命じた。
「下がれ、自室で謹慎だ」
悔しそうに唇を噛み締め、王女は優雅さの欠片もない所作で謁見の間を出た。他国の王族への挨拶すらしない娘の所業を、ベリル国王が詫びた。
「申し訳ない。戦が多く城を空けることが多かったゆえ、教育が行き届かず失礼した」
国王が詫びることで、この騒動は終わりとなる。互いの関係を優先した王の判断は正しい。
「随分と留守が多かったようですわね」
にっこり笑ったブリュンヒルデだが、その目は笑っていない。この時点で獣国ルベウスは、ベリル国との婚姻を拒絶する意思を示した。王太子以外にも王子はいるが、あの王女を迎える気はない。
クリスタ国はその心配がないので、ベルンハルトは言及を避けて曖昧な笑みで誤魔化した。
「王女は国内の貴族に預けるとしましょう。騒がせたお詫びを用意させました。どうぞお納めください」
物腰柔らかに、自国の特産品を運び込ませたベリル国王に、メフィストはじっと視線を注ぐ。だが興味を失ったのか。少しして眼鏡を弄りながらイヴリースを促した。
「では、失礼いたします」
来た時と同じく、あっという間に転移で消えた。膨大な魔力を持つ魔族の圧倒的な強さを前に、国王は呟く。
「敵に回したくないものだ」
「まったくです」
同意した王弟クリストフを振り返り、大きく伸びをした。それから王女の嫁ぎ先を決めるため、貴族院の招集を行う。体内の膿は早めに処理すべきだ、その判断に誰も反対しなかった。
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