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あと4時間25分…
――チクタク、チクタク――…
僕の耳に時を刻む時計の音が響いた。僕は押さえてたドアから手を離した。
「困ったな、あと1時間くらいで正門が閉まってしまう。明日の研究授業の内容が、まだ何も決まってないのに…」
――ガタ、ガタ――
「えっ…」
教室の後ろ側から物音がして、僕は振り返って見た…真っ暗で何も見えない。僕は、ゆっくりと教室の電気をつけ、教室を見渡した。教室は机と椅子だけで、誰もいない…
『気のせいか…』
と、教卓に戻り、置いてある教科書に目を落とした。何回も赤い線を引きすぎて、もう何が大事か、さっぱり分からない。
「とりあえず遺伝は複対立遺伝子の血液型とショウジョウバエの赤眼・白眼の話だけにしておこう。それと…あ、そうだ。笠間先生が『中間遺伝も大事だから、研究授業では必ずやるように』て言ってな。よし、練習だ。ええっと、オシロイバナの赤花と白花を掛け合わせると、雑種一代F1では、すべてが桃色になります。そして、雑種二代F2では、赤と桃と白が出現し、その比率は、どうなるでしょうか。分かる人は? 」
そのとき、誰もいないはずの教室で声がしたんだ…
「1:2:1です」
「だ・誰だ! 」
僕は、急いで教室を見渡した。しかし、教室はシーンとしたままだった。
「おかしいな、確かに声がしたと思ったのに…空耳かな? 」
「空耳じゃないよ」
「誰なんだ! イタズラしないで出ておいで! 」
でも、教室には誰もいない。僕は焦った。誰もいない教室で声がする。それって、もしかして、学校の怪談…
「あの…」
「おっ、おー! 」
突然、後ろの机の下から人影が現れたんだ! 僕は、あせりながら声を上げ、現れた人影を見つめた。
「え?? 」
「すいません。おどかして…」
「き・君は、に・人間か? 」
「ええ、一応」
「はー、良かった」
僕は大きく息を吐くと、近くの椅子に座った。現れた人影は、制服を着た、ここの女生徒だった。
「おどかさないでくれよ」
「どうも、すいません」
「あーあ、びっくりした。声がしたのに、誰もいないから、てっきり幽霊じゃないかって思って、びびってしまったよ」
「幽霊? 」
「よく、あるじゃないか、学校の怪談話で…放課後の教室に自殺した生徒の幽霊があらわれるとか、トイレで下から手が伸びてくるとか、誰もいない音楽室でピアノを弾く音が聞こえるとかって…」
「大丈夫ですよ。私は人間だ…」
少女は急に黙った。
「どうしたの? 」
「いいえ、なんでもありません」
そう言うと少女は黒板に近き、僕の板書を眺めた。
「これは何ですか」
「ああ、明日の研究授業の板書さ」
「研究授業? 」
「僕は、この学校で6月から教育実習している学生なんだ」
「へえ、今は、そんな時期なんだ…あれ? 」
教壇まで上がった少女は教卓の下に、僕が密かに隠していた大きな頭陀袋≪ずだぶくろ≫を見つけた…まずい!
「なんでもないよ」
と、隠そうとする僕の手より早く、少女は、僕の頭陀袋からはみ出している機関銃のグリップを握って取り出した。
「これは何? どうして機関銃が教卓の下にあるんですか? 」
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