37人が本棚に入れています
本棚に追加
<23>
母と別れた冬馬は、母の呼んでくれたタクシーでそのまま空港に向かい、その足で最終便にどうにか飛び乗り、深夜には羽田に戻って来た。
肩を落として愛車のGT-Rで帰宅すると・・。
何故かそこに、あの親葉がいた。
親葉の顔を見たら今更のように親葉に掴まれた右腕がじんじん痛くなってきた。
(なんで今頃・・・もうどうでもいい)
そう思えるくらい、その時は無力感と脱力感に襲われていた。
それに冬馬にはもう、親葉をどうこうするだけの気力も体力も残ってはいなかった。
泣き腫らした目で親葉をひと睨みしたが、それ以上何もする事は無かった。
「・・・何だ、未だ居たのか。婆さんの所に泊まるんじゃなかったのかよ」
「まだまだ話し足りない事がある。だから、絹江さんに頼んで冬馬の住所を教えて貰った」
そう言いながら、ケンタッキーフライドチキンの袋を軽く振った。
「そうかよ・・・入れ」
冬馬はぶっきらぼうにそう言い、医院裏の扉の鍵を開けた。
「お邪魔する」
親葉は軽く微笑みながら、後に付いていった。
冬馬の経営する診療所は、12階建ての賃貸ビルになっている。
半地下の一階に10台停めれる駐車場。
二階部分は診療所と、賃貸のテナント(現在は美容室と不動産屋が入居中)。
三階はフロアブチ抜きで冬馬の自宅になっている。
四階から上は賃貸マンション(単身者向け)として貸し出していた。
半地下の一階にエレベーターも付いては居るのだが、冬馬は健康のために隣に付いている階段しか普段から使わない。
今日も、かなり疲れている筈なのに階段を上って自宅に戻った。
「・・適当にくつろいでくれ。あ、靴だけは脱げよ。それと施錠も頼む」
「了解。・・・つか、男の一人所帯なんてかなり汚いのを想定していたが・・・。そもそも物が無い」
靴を脱ぎつつ親葉がそう呟くと、冬馬は不貞腐れたように言い返して来た。
「悪いかよ。元々貧乏育ちでな。物を持つ習慣がねえんだよ」
さらに親葉は鍵を閉めながら、
「俺の今いる奥浜名湖では、鍵なんか閉めなくたって泥棒なんか入った事は無いぞ? それに日本は平和な国だろ、こんなに厳重に鍵なんか付けなくたって大丈夫なんじゃないのか?」
そう問いかけると・・。
冬馬は呆れかえった表情で大きな溜息を一つ吐いた。
「・・・冗談だろ?奥浜名湖って・・ああ、静岡の西の端の。そんなど田舎と一緒にすんな。ココは首都東京、危ねえ奴なんて何時でもその辺にごまんとうろついてる。先日はウチの患者がストーカー化して突撃して来て・・。警察にお引き取り願ったばっかりだ」
「・・・患者?だってココ、小児科だろう?」
「ああ・・正確には患者の「お母様」だ。たまに居るんだよ、そういう輩が」
「お前は特にモテそうだからな、仕方無い」
その時上着を玄関横のハンガーラックに引っ掛け、靴下を脱ぎながら洗面台に向かう冬馬をまじまじ見ながら、親葉が呟いた。
「お前に言われたくはない。そもそも俺はそこまでイケメンじゃあ無い」
洗面台で手を洗う冬馬が、大きめの声でそう返して来た。
「・・・そいつはまあ謙虚な事で」
親葉はキッチンに向かい、フライドチキンの袋をカウンターに置いて
「流石にそのままは嫌だろ?冷めてるし温めついでに皿に移し替えるが、いいか?」
そう尋ねると、洗面台から顔を出した冬馬が
「馬鹿野郎、まずは手洗いからだろうが!外でどんなバイキン付けて来てるか分かんねえだろう!食いモン触る前に手洗いとうがい位ちゃんとしろ」
そう怒鳴りつけた。
それを聞いた親葉は、思わず笑ってしまった。
「・・・アンタらって・・・・・ハハッハハハハ・・!」
「何笑ってんだ、コラ」
手を洗い終えた冬馬が、怒り気味に洗面室から出て来た。
それでも親葉は笑ったままだ。
「だって・・そのセリフ、まんま春樹がいつも言ってた事だからさ。よくそうやって、春樹から怒られたものさ・・」
何時しか親葉の目尻に、涙の粒が浮かんでいた。
冬馬は親葉に歩み寄ると、自分より大きなその身体を抱きしめた。
「・・・そうか。兄さんは、お前が本当に大事だったんだろうな」
「・・・俺達は、同じ穴のムジナだ。互いに同じものを追い求め、愛しぬいて、同じものを同じ様に失った」
「・・・・ああ」
それから二人はソファで一晩中、春樹の思い出を肴に酒盛りをした。
「春樹はなぁ、そりゃもう美人だった。・・・マジで一目惚れだったんだ。あんな綺麗な男の人がいるなんてさ・・・神様って奴は酷いよなぁ・・・そう思ったさ」
「プッ・・ふっハハハハハ!神様って・・・・。そんなに神様ばっかり悪者にしちゃあ可哀想だろ」
「何だ、この国では違うのか?」
「そりゃそうだろ。すべて自身で選んで決めた事だ。自分で決めた事なら自分で責任を取る、当然の事だ」
「・・・そういうもんか。・・そういうモンだよな、確かに」
冬馬は親葉に六本目のチューハイを投げた。
そして、自身は五本目の栓を開けながら
「春樹兄さんは、全て自分だけで背負い込んで・・・・。最期は背負い込んだまま死んじまった。俺は、せめて一緒に背負いたかった。分けて欲しかった、兄さんの苦悩も、後悔も、憎しみも悲しみも全部。愛する兄さんの苦しみがそれで少しでも軽くなるのなら、どんな事をしてでも、どんな犠牲を払ってでも一緒にそれを乗り越えたかった。・・・・今更だけどな」
そう言い、一気に五本目を飲み干してしまった。
親葉は何時しか、赤ら顔でじっと冬馬の横顔を見つめていた。
「・・・本当に良く似てる。・・・アンタ達本当に血のつながりはないのか?」
冬馬が力なく笑った。
「それだったらどんなに良かった事か。・・血が繋がってたなら、こんな事は起きなかった。兄さんも俺も、こんなに苦しむ事は無かった・・・」
冬馬が顔を上げると、親葉の顔が既に目の前にあった。
「やっぱり似ている。春樹と冬馬、アンタ達はそっくりだ・・・・・」
まじまじと見つめる、親葉のその顔が急に近づいて来た。
「・・・え?さっきは似てないって言ったろうが・・って」
まさかと思った瞬間、親葉に押し倒されていた。
「春樹に、似てる・・。その綺麗な切れ長の目も、顔も。薄い唇が笑うと小さくなる所も。頭が良いくせに何処か抜けてて、優しくて不器用な所も、全部そっくり・・・」
そう語る親葉の目は、熱い。
だが、冬馬は・・・。
「ちょ、ちょっと待て!俺は兄さんじゃない!同性愛者でもないし、そもそも俺はアルファの男だ!」
冬馬が必死に親葉の腕を振り解こうとしたのだが・・・。
まずは唇を塞がれてしまった。
「こら・・んっ・・・ふううっ・・!」
親葉の舌遣いは上手く、何度も口を開こうとするのだが・・絡み付く舌が言葉を紡げなくしてしまう。
その上、親葉の方がガタイが良い。
アメフトで鍛えた体を維持する為に、親葉も朝のルーティンで毎日ジョギング10㎞、腕立て伏せ・スクワット各100回、腹筋背筋朝晩各100回をこなしている。
そんな猛者相手に、週三でフィットネスジム通いしてるだけの冬馬では到底太刀打ちできない。
完全に身体を押さえつけられ、半強制的に唇を重ねさせられ・・。
膝も既に、押し倒された時点で割られていた。
それでも、貞操の危機に見舞われているこの状況をどうにかしたくて、何とか唇を離した。
「・・・ぷぁっ!もう止めろ、俺は・・・・むうっ・・」
その後も親葉は執拗に冬馬の口腔を責めていたのだが・・。
ふと、急に唇が離れた。
「・・・味も同じだ。春樹と同じ、凄くいい・・・」
「いやいやいや、ケンタッキーとチューハイの味だって・・」
親葉に冬馬の言葉は全く届いていない様だ。
その瞳はうっとりと・・冬馬だけを見つめていた。
どうやら親葉はかなり酔っているのだろう。
普段なら絶対にしないのだが、冬馬のズボンを金具ごと破壊しながら引き下ろしてしまった。
「うっ、うわああああ!な、な・・・」
「冬馬、俺アンタとしたい。・・いいか?」
それには流石に・・・組み敷かれた冬馬が飛び上がらんばかりに驚いた。
「うわあ!!ちょ・・待て、待ってくれ!落ち着け親葉、・・いいか・・・・」
冬馬がテンパりながら、馬乗りになった親葉を突飛ばそうとするのだが・・悲しい位びくともしない。
それどころが、やる気満々の親葉は自分の上着を乱暴に脱ぎ捨て、ズボンのベルトをガチャガチャ音を立てて外している。
(まずい、まずい、まずいぞ・・・)
自分に馬乗りになった大男が鳴らす、ガチャガチャとベルトのバックルが鳴っている・・・その状況が冬馬には恐怖でしかない。
直後、その外し終えた、ジーンズの中からは・・・とんでもない大きさの”モノ”が顔を出した。
・・・・冬馬の顔が一気に青ざめた。
当然ながら、既に酔いは完全に冷め切っていた。
(冗談じゃない、今日も診察があるってのに!あんなの喰らったら死ぬ・・)
「な、なあ・・。俺、まさか「ネコ役」・・・じゃないよな?」
恐る恐る聞いてみたが・・。
親葉は舌なめずりした後、掌に唾液を出して自身の肉茎に擦り付けた。
「俺の唾液は、アルコール消毒されてるから大丈夫・・」
・・・・とんちんかんな答えが返って来た。
親葉はそう言うや否や、冬馬をごろんとうつ伏せに転がし、冬馬の腰を掴み上げた。
その瞬間、冬馬の窪みに激痛が走った。
「いってえええ!!痛い!・・・・・わあああっ!痛ててててて!!!」
「キツイ、もっと力抜いて」
「無理無理、やめろ!だから俺はまんま「男」!オメガの兄さんみたいに濡れたりしねえよ!だから入る訳ねえだろうが!」
冬馬は必死にもがいて、親葉がこれ以上侵入してくるのを拒もうとしていた。
「往生際合悪いな・・・」
焦れた親葉は、腰を思いきり前進させた。
何とそれが・・・ずぶりと根元まで入った。
「い、痛ったあああ!・・・・クッソ、超痛い・・・・」
力任せに突き込まれた親葉のモノが、酔いで手加減なしだった為に、その一突きで冬馬の中に全て収まってしまった。
親葉はニヤ~ッと半笑いで、
「残念だったな・・全部入った。・・気持ちいいか?」
などと、能天気な事をほざいている。
(気持ち良い訳あるか!超痛い・・・マジで死ぬ)
初めてだったにもかかわらず何の前戯も無く、ただただでかいモノを無理矢理押し込まれただけのこの状況が気持ちいい訳が無い。
「クウッ、痛っ・・・痛ってえよ、早く抜け!」
冬馬はもう涙目で、痛みに身体を震わせているのだが・・そんな事、酩酊状態の親葉は全く気づきもしない。
「おかしいな・・・春樹は嬉しそうに腰を振って悦んでくれたのに」
そう呟きながら、遠慮なしにバンバンと腰を打ち付けて来た。
「ひいっ・・うわあああああ!」
冬馬は余りの痛みに絶叫した。
それと同時に何かが頭の中で弾け、そのまま意識が飛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!