手紙の帰り道

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 日差しが強い。空は青さを増し、気温は上がり続ける。  この町は――違うな、この国の夏は暑すぎる。  学校に着くころにはシャツが肌に張り付いていた。  ……せっかくシャワー浴びたのに。  自転車置き場に自転車を置き昇降口に向かう。何人かの生徒とすれ違う。  文化祭の準備やらで自主的に学校に来ている生徒たちだ。エネルギッシュというかなんというか。  昇降口に着いて靴箱を開ける。 「……あ」  上履きがない。  ……あそうだ、夏休みだから上履きとかは家に持って帰ったんだった。  一瞬でも「え、いじめ?」とか思ってしまった自分が情けない。  私は靴箱を閉め、仕方なく来賓用のスリッパを履いた。  履いていいのかはわからないけど、生徒を裸足で歩き回らせるよりは良いと思ってもらおう。  図書室に向かう途中にも何人かの生徒とすれ違った。  まあ部活動や、クラスの出し物で忙しいのだろう。夏休みなのに。  夏休みといえば、図書室は開いているのかな、もしかしたら夏休みも図書委員は仕事があったりするのだろうか。あるのだとすれば心底図書委員にならなくてよかったと思うが、もしないのだとしたら図書室は開いていないんじゃないか?   それは困る。困るなんてものじゃない。せっかく来たのに骨折り損だ。 「ん?」  うつむきながら歩く私の目に白い小さな四辺形が目に入る。  廊下に手紙? が落ちてる。  拾ってみるときちんと封筒に入った手紙だ。  今から職員室まで戻るのは面倒くさい。図書室が空いてたら図書委員に渡しちゃおう。  廊下の角を曲がるとすぐ図書室だ。扉に手をかけて横にスライドする。  扉は抵抗することなく開いた。受付を見てみると女生徒が座っている。どうやら私は図書委員にならなくて正解だったらしい。 「あの、すいません」  私は受付に近づいてカバンから本を取り出す。 「ああ、返却ですね」  図書委員は本を受け取り、返却手続きを手短に済ませて言った。 「何か借りていきますか?」 「はい」  学校まで来たのだからただ返して終わりっていうのもな。せっかくだしなにか他の本も借りていこう。 「あ、そうだ」  私は拾った手紙を図書委員に渡す。 「これ、廊下に落ちてました。職員室より図書室の方が近いんでこっちに持ってきちゃったんですけど」 「落とし物ですね、預かります。……またか」  少しため息をつく図書委員。 「また?」 「あ、いえ。最近学生の間で手紙のやり取りが流行ってるみたいで、増えてるんですよ手紙の落とし物が」  手紙のやり取り?   このデジタルの時代に?   いくら何でも時代錯誤過ぎない?   いやでも流行はまた流行るっていうし、そういうのがあってもおかしくはないのかな。私もメールとかよりは手紙の方が好きだし。  ていうか学生の間で流行ってるの? 私何も知らないんだけど…… 「学生の間で、流行ってるんですか? 手紙のやり取り」 「はい、かくいう私も文通してます。書き方は人それぞれですが、友達同士の何でもない会話や恋仲の人がこっそり、なんてこともあるみたいですよ。なんか暗号みたいにして二人だけの文通を楽しんでる人もいるみたいで――」  図書委員もやってるのか。こんな大人しそうな子までやってるってことは本当に流行ってるんだな。何も知らなかった。  まあどうでもいいか。私にはあんまり関係ないことだし。 「そうですか」  図書委員の話に熱が入りそうだったので会話を終わらせて受付を離れる。  本を借りるといっても何を借りるか決まっていたわけではないし、少し図書室をうろうろしてみる。  図書室の隅っこは確か歴史の本棚だったな。  歴史書は意外に嫌いではない。かと言って特別好きというわけではないが、今の社会がどのように成り立っているかとか、その国々に染み付いている文化や習慣を知ったりするのは良い暇つぶしになる。のだが、少し埃を被った本を見る限りどうやらここの生徒は歴史があまり好きではないようだ。  歴史書のコーナーは随分と端っこにあるし、ほとんど人の立ち入らない図書館の中でも特に人の近寄らない場所だな。  歴史教諭の座間先生は結構抜き打ちテストをするからこの辺の本は見ておいても損はないと思うけど。  一冊引き抜くと、本と一緒に封筒が出てきた。  なるほど、図書委員がため息をつくのもわかる。私も図書委員と同じ言葉を言ってため息をついた。 「またか」
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