手紙の帰り道

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 結果から言うと卒業アルバムには私が欲していた答えはあり、今回の問題は簡単に解けた。ただその人物というのは少し意外ではあった。今はその人のもとに真相を聞きに行っている。要するに答え合わせだ。  私は職員室の扉を開けて目的の人物がいることを確認して入る。 「失礼します」  その定型文をほとんどの先生が聞き流す。  私はそのまま窓側の席にいる先生に近づいて声をかけた。 「座間先生、ちょっといいですか?」  私がたどり着いた、手紙をやり取りしていた人――それは、歴史教諭の座間先生だ。 「作家さん、先ほどぶりですね、どうしました?」 「いや、実はですね、昨日図書室の歴史コーナーで偶然古い手紙を見つけたんですが――」  私は持っていた手紙を先生に見せる。A→Zの面を先生に向けて。 「――このZっていうのは座間先生ではありませんか?」  先生の顔が驚きの表情に変わる。  それもそうか、十年も前の手紙を、今の生徒が見つけたら驚くだろう。  しかし、この表情はただ驚いているだけではない気がした。 「……少し見せてもらってもいいかい」  先生はその表情のまま私の手紙を受け取った。そして少ししてから口を開いた。 「ああ、この手紙は確かに僕が高校生の時にやり取りしていたものだ。でも、どうやってこの手紙が僕のだと?」  先生はとても不思議そうに私を見ている。  私は一拍間をおいてから話し始めた。 「日付です。西暦の部分からは何もわかりませんが日付を見てこの手紙が卒業シーズンに出されたものということがわかりました。それからこのA→Zです、私はこれをAさんからZさんに出された手紙という形で解釈しましたがこのA→Zには二種類の解釈の仕方があり、そのおかげで数字の羅列を読み解くことか出来ました」  先生は私の話を聞きながら手紙の中身を見ている。 「そのA→Zには特定の誰かを表すのと同時にアルファベットという意味もあるということに最初は気が付きませんでした。封筒の裏に書いてあったので、勝手に宛名だけだと思い込んでしまいました。あの数字は単純に、アルファベットを並べてその中から番号の文字を読めばよかったんですね。まあこれは友人のおかげで気が付くことができたのですが、なんというか、青春ですね」 「そこからどうやって僕だと」 「私が今日学校に来た目的は二つありました。一つは卒業アルバム、それともう一つは二〇〇八年の卒業式の日程を知るためです。もしこの手紙に書いてある三月一六日が卒業式なら、その日に手紙を出す生徒はその年の卒業生だと考えるのが自然です。あとは二〇〇八年の卒業アルバムを見てイニシャルがAの生徒とZの生徒を探すだけですから、先生は簡単でした。ザ行の生徒は先生だけでしたから。ア行の生徒は相沢さんと秋田さんがいてどちらか特定することはできませんでした。個人的には相沢さんだと思っているのですが。」  先生は唖然とした顔で私を見ている。 「いやあ、驚いたよ」 「決定的だったのは先ほどの先生への質問の答えだったんですけどね」 「質問っていうのは、卒業式の日がいつだったかってことかい? あれだけで何かわかったのかい?」 「はい。あの時先生はなんの資料も見ないで答えました。よほど思い入れがなければ卒業式がいつかなんて覚えてるものではありません。それに先生の年齢的に二〇〇八年は丁度学生時代だったはず。つまり先生が覚えているほど思い入れがある卒業式っていうのは、先生自身の高校の卒業式だったのではないかと思って」  いきなり沢山喋ってしまったので深呼吸をして酸素を取り込む。  一瞬の沈黙。私の考えは見当外れだったのか? と不安になってしまう。  その間に先生が喋りだした。 「いやすごい、本当にすごいよ、まるで探偵のようだった。そうかそんなことから僕だと……本当に驚いた。ア行の生徒が分からないって言ったね、うん、それも君の推測通りだよ。相沢さんが卒業アルバムの集合写真で僕の隣にいたのを見たのかな。あの時の写真は今でも僕の自室の机の上に置いてあるんだ」 「卒業式の写真をですか?」  先生は後ろの窓に椅子ごと向けて外を眺める。 「色々と思い出してしまったな。懐かしい」 「やっぱり、付き合っていたんですか?」  先生は外を眺めたまま 「……思い出したついでに、よかったら少しだけ聞いていってくれるかい。十分もいらないから」  十分だったら、ちょうどいい時間だ。 「はい」 「僕はね、卒業式の日に、相沢さんに告白したんだ。一世一代の告白だったよ。その後も同じ大学に行くことが決まっていたんだけれど、相沢さんとは一緒に入学することが出来なかった。彼女は、入学までの数週間の間に――事故で亡くなってしまったんだ」 時刻はもうすぐ午後の五時、空がゆっくりと赤くなろうとしているところだった。
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