ちょっと暖かい日差し

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ちょっと暖かい日差し

新しい日々の始まり。 窓からの柔かな、暖かい日差しに包まれる。 色んな思い出の詰まった写真と色紙に 勇気をもらいつつ、ドアへ向かう。 会社へと向かうこの第一歩。 これから素敵なことが待ち受けるだろう。 沢山働いて、勉強して、遊んで、恋をして。 胸にたくさんの夢を描いて。 ああ、世界はこんなにも輝いている。 ドアを開けたら、 きっと素敵な世界が広がっている。 ドアノブに手をかける。 少し心を落ち着かせる。 学生の頃から、 少し背伸びをした化粧を済ませて。 少し、心配になって横目で鏡を見る。 うん、大丈夫と言い聞かせる。 よし!と、ドアノブを握る手に力をこめる。 押そうとした瞬間、ドアは勝手に開かれる。 「あれ?姉ちゃん?」 ドアの先には弟が、寝ぼけた顔で立っていた。 ボサボサの髪の毛、寝巻きのまんま。 「なんだ姉ちゃん、起きてたんだ」 私は、少しガッカリする。 私の始めの第一歩がこれなのか。 うまいこといかないな、 なんて苦笑いしてしまう。 「今日から会社だもの、起きてるわよ。そんなことより、あんた学校は?」 「俺は、まだ眠いからさ」 「また、そんなこと言って。ちゃんと準備していきなさいよ」 「はいはい」 少し離れた弟は、中学三年生。 最近声変わりをして、すっかり大人の声。 なのに、態度は子供のまんま。 いつかあなたも、社会人になるんでしょうね。 でも私は、一足先に大人になってくるわ。 玄関に向かうと、弟もひょこひょこついてくる。 振りかえると、不思議そうにこちらを見つめ突っ立ってる。 改めて、弟を見上げていることに気づき、 こんなに大きくなっていたのね、と笑ってしまう。 「いってきます」 そういって、私は玄関を開けた。 「おう、いってらっしゃい」 と弟が答える。 玄関が閉まるギリギリのタイミングで 弟が口を開く。 「なんか姉ちゃん。  最近、キレイになった?」 私は、振りかえるとすでに、玄関は閉まっていた。 少し笑ってしまう。 こんなことで嬉しくなるなんて。 きっと今日は良い日だろう。 少しだけ、少しだけさっきよりも、 日差しが暖かく感じた。 ーーーー 今日は、お姉ちゃんの仕事の初日。 最近寝ぼけてばっかの姉を起こしにいく 俺はなんてできた弟。 眠い目を擦りながら、ふらふら歩く。 ドアを開くと、すでにそこに立っていた。 驚いた顔で。 たくさん着飾って。 初めてみるその姿に、 ちょっと動揺した。 どこかガッカリした様子で歩いていく。 俺はそのまま玄関へ見送りについていく。 ついに大学生か、となんとなく羨ましそうに見ていた。 いってらっしゃい。 何か言い足りない。 そんな気がする。 暖かい日差しに包まれて、髪が煌めく。 横顔がちらっと見え、 思わず、口に出てしまった。 すぐ閉まる玄関。 俺は、ちょっと安心した。 きっと俺の顔は真っ赤だろうから。
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