名前はいらない

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 なんだい、改まって名前を呼んで。……ふうん、やっぱりか。わかってたさ。俺が二十六年前に起きた××市連続変死事件の容疑者の息子ということ以外に、あんたが俺に興味を持つ理由がどこにある? 胸糞の悪い事件だったな。親父は怪しまれた時点でお袋を道連れにしちまった。先に言っとくが、俺に親父の事件の真相を期待しても無駄だぞ。俺はまだガキだったから、親父がしでかしたことの大きさもよくわかっていなかった。だから生かされたんだろうな。  俺が親父と再会した暁にゃ言うと決めたことがある。なぜ一緒に死なせてくれなかったのか? 親父のせいで、俺の人生はめちゃくちゃだとね。  俺が凶悪犯罪者の息子だというレッテルはどこまでもついて回った。今の時代、ネットで晒されちまったら終わりだ。どれだけ隠そうとしたって、おのれの正義を振りかざしてくる連中は絶えず、俺は散々な目に遭った。学びたいことはあったが俺は大学を諦め、かといって定職にも就けず、アルバイトで食いつないではあちこちを転々とする生活を送った。  ……同情してくれるのかい。なら、せいぜいお涙頂戴な記事でも書いて、ギャラの一部を俺に払ってもらおうか。
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