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……ところで、この雨はいつ止むんだ。気が散ってしかたがない。こんな土砂降りの雨の音を聞いたら、思い出しちまうじゃないか。何をって、それを今から話すんだよ。真夜中のことだ。目を覚ました俺は、隣で起き出し怯えたように身を縮こめるあの子を見て、悟った。いつかは来ると覚悟していた日が、とうとう来てしまったのだ。それにしちゃあ、あの子の顔色は尋常でなく真っ青だった。初めてのショックのほかに、体調も優れなかったのかもしれねえな。男の俺の部屋に用意はなく、俺は病気じゃないことだけ強く言い聞かせ、お腹を温めるために湯たんぽを渡してやるとあの子は少し顔色を取り戻したようだった。翌朝になってから必要なものを調べて買いに行かせた。そのあいだに俺は布団のシーツを替えたが、汚れたそれはどんなに洗濯しても跡がうっすらと残った。俺はなんとなく気味が悪くてそのまま捨ててしまった。
その夜からだ、俺があの子を今までと同じ目で見れなくなったのは。オジサンオジサンと俺を慕う声は変わらずとも、俺に触れる手つきになまめかしい女のしぐさを感じて、思わずその手を振り払っちまった。あの子は聡い子だったから、態度には出さないもののそれ以来俺に触れることはなかった。それがなんとなくいたたまれなくて、俺は必要以上にあの子に優しく接した。するとあの子も同じように気を遣う。悪循環さ。笑っちまうだろう。
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