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私の好きだった青は、どうやら本当は青じゃないらしい。
私はあの娘の瞳の色が好きだった。空と同じ、心を温めてくれるようなそんな色。
でも、現実はそうじゃなかった。
「あなたの視神経は、赤と青が逆転して繋がっていますね」
そんな一言で世界がひっくり返る。
私が今日まで赤だと信じていたものは、他人にとっての青。
私が今日まで青だと信じていたものは、他人にとっての赤。
じゃあ、バラは本当は冷たい印象の花ではないのか。それとも、空は本当は冷たい色なのか。
「私、どうしたらいいんだろう」
「これまで、困ったことはないの?」
あの娘の暖かい瞳が覗く。
「困ったことはないよ、だって、私にとってはずっとこれが青で、あれが赤なんだもの」
「そうだね、私にとってはもこれは青だし、あれは赤だよ」
この問い掛けに意味がないことは分かっている。だって、その色はそう見えるのが普通だとずっと信じていたんだから。きっと誰だってそうだろう。あなたの見ている世界が人とは色違いの世界だと言われたって、気づけるはずもないのだから。
「本当の世界を見るのが、怖い?」
「ううん、怖くないよ」
でも、私がこれまでに見ていたあなたの瞳は、本当の色じゃなかったんだね。
「だいじょうぶ。私がいま見てる世界は怖くない。それに」
あの娘が私を包んでいる。その熱だけは嘘じゃない。
「これで私たち、同じ景色が見れるんだね」
「はは」
そっか、そうだよね。
もっと早く気付けばよかった。
私が本当に好きなのは、赤でもなく青でもなく。
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