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思えば当然の事ではある。
彼にとって私は"親友を手酷く捨てた女"の娘であり、その親友の血は一滴も混じっていないわけだから。父が私を育て続けると決めた時も、彼は何か言いたげな表情をしていた。
目に見えて声に出さないのは彼が大人だからだ。親捨てられた少女に対する多少の哀れみがあったかもしれないし、親友の決断に水を差すのを嫌ったのかもしれない。
だが時として、彼の視線は雄弁に物を語る。
そのまるで私が父の傍にあるのを厭うかのような、私を見張るような冷たい目が、当然の事とは思いつつもやはり苦手だ。
ぽん、とお皿に転がしたオムライスは改心の出来映えだ。これなら、あの無駄に綺羅綺羅しい顔の前に置いても遜色はないはずだ。当の本人は全く気にせずにあたりめを噛んでいるけども。
「おまちどうさま」
既に缶ビールを1缶空けたらしい那由多さんの前にオムライスを差し出すと、彼は大袈裟なくらいに喜んだ。その横にいる父が微笑ましいものを見るような目で彼の様子を眺めている。
本当は気づいていた。
父が私を育て続ける理由も。
那由多さんが時々冷たい目をする理由も。
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