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那由多さんは父の事が好きだ。そして、おそらく父も彼の事をそういう意味で好いている。
2人から明確な言葉を貰ったわけではないし、2人の気持ちが正しく通っているかというと、そんな事はない。けれど彼らがお互いへ向ける視線の熱量は、憧れの先輩を見つめる時のクラスメイトを想起させた。
それに気がついた時、私は驚きや戸惑いよりも先に、妙に納得してしまったのをよく覚えている。むしろ今まで疑問に思っていたことが1本の線で繋がっていく心地に、呆れるくらいの爽快感を覚えたほどだ。
父は那由多さんの事を諦めようとして母と関係を持ったのだ。2人が長続きしなかった理由がよくわかる。彼らの間にはお互いに対する同情こそあれ、最初から恋も愛も横たわってはなかったのだから。
父が私を育て続ける理由もきっとそれだ。
那由多さんの隣でふにゃふにゃとだらしなく笑う父を見る。こういう表情を見ると年相応に見えるから不思議だ。那由多さん効果なのか。何だかずるい。どっちに対しての気持ちなのかは、わからないけど。
捨ててもいいよ。
きっと、私がいなかったら全部うまくいくよ。
2人を見ているとそう告げたくてたまらなくなる時がある。もし言ったら、彼らはどんな顔をするだろう。
同性同士とか、マイノリティとか、世間体とか、そういう父達が気にしていること全てがどうでもよく思えてしまうのは、私が子どもだからだろうか。
だって、男女でもうまくいかない家庭なんてゴマンとあるのに、そんな事を気にして諦めるなんて勿体ない。
好き合った人たちが一緒にいれる事以上に、幸せな事なんてきっとないのに。
父がまた泣いてしまうだろうから、絶対に口には出さないけど。
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