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4人目の父親
「ただいまぁ」
気だるげな声と共に玄関扉を開ける。おろしたてのスニーカーを脱いで端に寄せた時、この時間帯にいつもはないはずの見慣れた紳士用の革靴を見つけて「あ」と声をあげた。
「パパ? 帰って来てるの?」
セーラー服を翻して家に上がれば、目的の人物はすぐに見つかった。
リビングのソファの上で1人の男が眠っている。長い足を器用に折り畳むことで、そう大きくないソファにその長い体躯を納めていた。
「スーツ、皺になるよ」
声をかけるが、「うん……うう」という寝言めいた返事は要領を得ない。半分以上は夢の中というところか。
彼が寝苦しそうに身動ぐと目元に被るように伸ばされた前髪が取り払われて、その面立ちが露になった。目の下の隈が陰気な印象を与えてくるが、整った顔立ちの青年だということがわかる。
そう、青年。
草臥れたスーツのせいで年齢よりも老けて見えるが、彼は29歳になったばかり。肌にはシミも皺もないし、白髪だってほとんどない。
けれどこの年若い男こそが、私の父親だった。
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