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「カッコなんか、どうだっていいじゃん。上手くなくたって、ぎこちなくたって、風吹ならなんだっていいんだよ、俺。ちゃんと、恋人にして」
「蓮……」
「俺、風吹としたい。だって、好きだもん」
瞳に大海を浮かべた蓮の顔を風吹が見つめる。ふと、風吹が蓮に近づく。そっと腕を伸ばして、蓮の頬に触れると、蓮の瞳から雫が転がり落ちた。
「――愛してる、好きだ、お前だけだよ……どう言えば、お前に伝わる?」
優しい表情で問いかけられて、蓮は余計に涙が溢れた。今度はもっと温かい涙だった。
風吹の目を見詰めて、蓮は微笑む。
「……言葉より、抱き締めて」
その言葉を言い終わるか否か、風吹は蓮をその胸に引き寄せた。
ぎゅっと抱き締められ、息が詰まる。その苦しささえも愛しかった。
「風吹……」
「蓮」
風吹は蓮を抱き締めたまま布団に倒れこんだ。蓮を下に組み敷き、そっと体を腕で持ち上げて蓮を見詰める。下から見る風吹の表情に蓮の心臓は高く鳴る。
「ホントのこというとな……結構我慢してた部分もあるんだよ」
「我慢って?」
「お前……意識してか無意識なのか、すっげー俺のこと誘ってただろ?」
「誘った、かな?」
全く身に覚えがないわけではない。二人きりの夜、わざと体を摺り寄せたり、ベッドの上でじゃれてみたりということは意図してやったことだ。風吹は全く乗ってこなかったが。
「こうやって、押し倒してやりてぇって、何度も思った。でも、この先……どうやったって、お前を傷つけそうな気がして怖かったんだよ」
「俺は大丈夫だよ。教えてあげるよ、風吹」
「生意気」
風吹は蓮の言葉に笑いながら、その鼻先を摘んできた。蓮がそれを首を振って解く。意外にあっさり外れた。
「じゃあ……教えてもらおうかな。蓮に」
「何から始める?」
風吹はそっと顔を近づける。
「蓮が感じるところ、からかな」
キスする一瞬手前で囁かれて、蓮は答えられずに目を丸くする。
――あーもう……やっぱり気障だよ、この男
蓮はキスを受け入れながら心の中でため息を吐く。けれど、同時にこの言葉に酔って乱されていくのも悪くない、とも思った。
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