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フライドチキンとパセリ
カラッと揚がった衣の中にジューシーで肉厚なチキン。
骨からスルリと肉が解ける感覚まで美味しい。
園芸に興味のないうちでも、なぜかパセリだけはプランターで育てている。
毎年、面白いほどに育って、たくさん採れる。
2年経つと花が咲き、種を付けて、種を収穫して、また植える。
それを繰り返す。
12月のクリスマスは、新鮮なパセリをふんだんに料理に使い、飾る。
その時のパパは、すごく嬉しそう。
たくさん収穫できたこととか、綺麗に飾り付けられたこととか、皆が食べてくれることとか。
そういう喜びだと思っていた。
実際、フライドチキンを食べたあとのパセリは、口の中がスッと爽やかになり、胃もスッキリした。
調子に乗って、フライドチキンをお腹いっぱい食べられるのはパパの作ったパセリがあるからだ。
だけど、どうにもパパの喜んでいた理由はそれだけじゃなかった。
お婆ちゃんが天国に行った年。
涙をこらえながら、仏壇に育てたパセリを飾っていた。
花の代わりが新鮮なパセリ。
それも、クリスマスの近い時期だったから、私の息子が仏壇のパセリをクリスマスツリーだと勘違いしていた。
子供の無邪気な遊びにも、優しいパパは付き合って、仏壇のパセリを飾る。
星を付けたり、カラーモールを付けたり。
数時間後にはツリーらしくなっていた。
遊び疲れた息子が昼寝をしている間に、仏壇のお婆ちゃんの顔を見るパパに、私は真っ先に謝った。
「良いんだよ。このパセリはサンタの妖精から貰ったものだから。きっとお婆ちゃんも喜んでるよ」
サンタの妖精は、お婆ちゃんのことだ。
すぐにピンと来た。
お婆ちゃんはファンタジー好きで、その類の絵本も小説をよく集めていた。
そんなお婆ちゃんは、妖精という言葉を便利に使っていた。
忘れ物や捜し物をしても妖精のイタズラのせい。
良い事があっても、庭にタンポポが咲いても妖精が運んできたと。
お婆ちゃんの周りには、妖精で溢れていた。
だから、クリスマスも我が家はサンタクロースではなく、妖精が来ると言い聞かせられた。
「妖精は恥ずかしがり屋だから、人が寝静まった後、そっとプレゼントを置きに来るんだよ。もし、クリスマスプレゼントを置いているところを見られたら、ビックリしてプレゼントをくれなくなる。だから、もし目が覚めてもギュッと目と耳を塞いでおくんだよ」
クリスマスの時期は、いつもそればかりだった。
おかげで私は、サンタクロースの正体を知ろうとはしなかったし、今も息子にそう言い聞かせて、眠りにつかせている。
便利な妖精だ。
パパのサンタの妖精は、もちろんお婆ちゃんだ。
パセリは、私が産まれた年にパパの枕元に置いてあったと言う。
それから引っ越しをして家が変わっても、妖精から貰ったパセリを育てているそうだ。
種が収穫出来た年には、サンタへお返ししていたそうだ。
だからうちには、パセリを植えているプランターが二つ並んでいる。
私には、いつもどちらも同じパセリに見えていたけれど、パパにもお婆ちゃんにも、どちらが自分のパセリなのか見分けがついていたのだろう。
毎年、一緒にクリスマスパーティーをするお婆ちゃんも喜んでいたんだ。
「こんなにたくさんのご馳走が並んだら、クリスマスの妖精さんも喜んじゃうわねぇ」
そう言って、上品に笑っていたお婆ちゃんの声が今にも聞こえるようだった。
「ママー」
ドタドタと廊下を走り抜ける息子の声が家中に響く。
パパと二人で、もう起きてきたと苦笑いした。
ココだよーと同じように大声で呼ぶと、スパンと小気味よく襖が開いた。
強すぎる力で襖を開ける息子に驚いたが、さらに驚くことを息子は言い出した。
お婆ちゃんが気に入って使っていたポチ袋を掲げ「サンタの妖精さんがくれたー」と踊りだす。
パパに問いただしても知らないと言うし、私もクリスマス前にプレゼントを渡すマネはしない。
息子に聞いても、起きたら枕元にあったという経緯しか話さなかった。
「開けてもいーい?」
息子がワクワクしながら言うので、慎重に開けさせる。
中からは、小さな小さなパセリの種が出てきた。
家にある唯一の自然に、息子は敏感に反応する。
「パセリだー! 植えるー!」
私は、裾をグイグイ掴まれて、庭に連れ出される。
庭のプランターのパセリの片方に花が咲いていた。
夏に咲くはずの花が咲いていることに、パパも私も心底驚いた。
「妖精さんのおかげだねー」
咲いた花を息子は、しげしげと眺めて、そう言った。
パパも私も妖精を信じずにはいられず、確かにそうだと笑った。
種を蒔くには、遅すぎる12月。
だけど、来年の12月には立派にクリスマスを彩ってくれる気がした。
クリスマス当日。
フライドチキンを食べ、パセリを口に含む。
口の中がスッキリとリフレッシュする。
息子はパセリを口に入れる度に「僕のパセリ?」と聞く。
自分のパセリだと信じて疑わない息子は、フライドチキンとパセリを交互に食べていた。
彼のパセリはまだ芽が出たばかりだが、それは秘密にしておいた。
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