星ふる夜に

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星ふる夜に

星が一つ降れば、願いがかなう。 二つ星が降れば、幸せがやってくる。 三つ星が降れば、世界が変わる。 星が降る村として有名なとある農村には、そんな言い伝えがあった。 このご時世、人里離れなければ満天の星は見えない。 輝く星を楽しみに村には観光客がひっきりなしであった。 その余興として、言い伝えを村人が語る。 昔の人々は、その話を聞いて期待を寄せて空を見上げたそうだと、村長が締めくくる。 村長は、緊張がとけた面持ちであった。 都会から来た観光客がうっとりと耳を傾けていたところから、現実に引き戻され、村長に拍手を送る。 一際、高らかな音で村長を讃える観光客の中には、会社をいくつも持つ社長がいる。彼は、部下を引き連れ、はるばる村へ来た。 言い伝えは、流れ星の延長として皆、楽しんで聞いていた。 社長は、先祖に縁ある村として部下をつれて訪れていた。社長の会社の一つは、今や、日本にかけがえのないものであった。 社長は語る。 流れ星なんて、珍しくない。 難しい説明は様々あるが、なぜ起こるかは科学で証明されている。 言い伝えは、所詮昔話。だが、本当のように思わせるのも技術がいること。 村長は素晴らしい。 彼は、村長を褒め称える。 そのとおりだ。 誰しもそう思うのだ。 所詮は、古臭い言い伝えなのだ。 村の人間以外にとっては。 村長も村人も語らない。 所詮、言い伝えだと考える余所者には、教えない。 山や川、海、全ての自然を捨てて星を消していった都会者には。 言い伝えの星は、流れ星ではないことなど。 村にふる星は数百年に一度、必ずこの村に落ちる大きな隕石だということを。 今日は三つ目の星がふる日だということを。 社長は、笑う。 かつて、彼の先祖がこの地を捨てたことも知らず。 振る舞われる酒を多くの部下達と空にした。
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