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これも違う。あれも違う。 散らばった鍵を拾っては捨てを繰り返す。 一つの鍵穴に合う鍵は、一つきり。 差し込んで回らなければ捨てる。 どんなに豪華に飾られた鍵でも、扉を開かねば意味はない。 意外と素朴な鍵が合うのだろうか。 試しに、鍵をさしてみる。 鍵穴に深く刺さるが回らない。 型取りが得意な鍵師なら簡単に、あるいは直感にすぐれたものなら楽に開けるのだろう。 でも、この鍵は僕が開けなくてはならない。ズルをして乱暴に開けることもしてはならないし、扉を壊すこともしてはいけない。 傷が残れば一生ものだ。 だから僕は今日も彼女に愛の告白をする。 試し続けたら、いつか鍵の開く音がするはずだから。 「僕は、君を誰よりも大切します」 カチリと音の鳴る。 僕は扉の向こうの美しい彼女を見て泣き崩れた。
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