やまない雨

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やまない雨

やまない雨などない。 昔誰かが言っていた。 ぬかるんだ地面も固まる。そして、雨が上がれば虹が出る。 そうすれば、人々の苛立ちも消えるだろう。 その時をじっと待て。 小さな小窓から沈みゆく国を眺めながら、そんな言葉を口ずさむ。 私が産まれた時から降り続く雨。 忌み子として嫌われる私は、今だ城の一番高いところで今日も雨が降り続く城下を除く。 城の一番高いところ。 一番冷たくて、狭くて、古いピアノが置かれているだけの部屋。 質素な部屋でかつて王子と呼ばれた忌み子は、ピアノで雨と語るのだ。 この雨は、彼の涙。 この雨は、彼の言葉。 この雨は、彼自身。 だとすれば雨が止んだ時、彼は虹を見られるのだろうか。ぬかるむ大地を見たことのない王子は、じっと待つ。
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