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シュトレン
零れ落ちる粉砂糖を指ですくい取る。
舐めると当然甘く、顔の筋肉が緩む。
断面を彩るドライフルーツも甘く誘惑してくる。
幸せな味を想像させる見た目に、食べる前から頬の筋肉は緩みきってしまう。
シュトレンを一枚ずつ削ぐ。
世界各国を飛び回る私達は、どの国にいても、どんなことがあっても、朝日が昇るの同時に一緒にシュトレンを食べる。
クリスマス前の一ヶ月前は、クリスマスが始まることを待ちわびながら。
クリスマスが終われば、来年のクリスマスが来ることを楽しみにシュトレンを削ぐ。
私達は双子。
男女の違いはあれど、顔も髪のはね方も鼻を触る癖も同じ。
声だけは、違うけど黙っていれば分からない。
それは、友達のトナカイだって私達を間違える。
仲間達も見間違えるほどソックリだ。
だけど、お師匠様のサンタ達は誰一人間違えない。
「サンタが双子を間違えたら、別々のプレゼントを渡す時に間違えてしまうだろう?」
私達のお師匠様は、ホッホッと柔らかく笑っていた。
トナカイがひくソリに乗って、空の上から子供達を見守りながらそう言った。
今日は、星が降ってきそうなくらいの綺麗な夜空だった。
ソリの下には、星が落ちたような街の夜景が広がっている。
お師匠様の望遠レンズの眼鏡がキラキラ光る。
「ふむふむ。この家は、新たに三つ子が産まれたのか」
そう言って、サンタ用名簿に新しく子供達の名前を三人書き足した。
お師匠様は、自分がかけていたサンタの眼鏡を私達に手渡した。
「どれがどの子か分かるかい?」
弟と取り合うようにして、眼鏡をかける。
あまりの街の強い光に、目が眩んでクラクラする。
だけど、それもすぐに慣れてお師匠様の指が刺して家の中を覗いた。
窓際のベッドに、顔の同じ赤ちゃんが三人並んでいた。
サンタの眼鏡は、子供を見ただけで名前が分かる。
サンタ見習いの間で囁かれていたサンタのひみつ道具。
ワクワクしながら、三人の赤ちゃんの顔を見ていたけれど、名前なんていっこうに出ない。
目を凝らしても全然分からなかった。
痺れを切らした弟が、私から眼鏡を奪ったけれど、弟も首を傾げることになった。
朝日が昇り始め、お師匠様はトナカイに命じてサンタの小屋に帰る。
その間、答えを教えて貰おうと強請っても、お師匠様はホッホッと笑うだけだった。
サンタの小屋で、シュトレンを削ぐ。
私達双子の分とサンタのお師匠様の分。
クリスマスを前にどんどん小さくなるシュトレンに心が踊った。
お師匠様は、シュトレンの粉を髭につけながら私達に言う。
「一人前のサンタになれば、子供達の名前も欲しいプレゼントもすぐに分かるようになる。それまでは、私の手伝いをしておくれ。三人でシュトレンを食べるのも悪くないだろう?」
お師匠様は、眼鏡の奥でウィンクした。
お師匠様の言うことには、なぜか説得力があった。
私達は、じっくり一人前を目指すことにしてシュトレンを食べる。
今年のクリスマスも来年のクリスマスも楽しみにしながら、食からもクリスマスの準備をする。
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