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レモン
白い花から甘い香りをさせるレモン。実は、酸っぱい癖に花も蜜も甘いというのは、まるで世知辛い人間の世を示すようだ。
無防備で雨を受けながら、私は他人の家の庭に植わっているレモンを眺めていた。
春頃には、甘い香りをさせていたレモンは、沢山の実をつけていた。運良く実った実が羨ましい。
私も実をつけて、たわわに育つはずだった。リストラされるまでは、立派な果実になるはずだったのだ。
ポトリと小さな実が落ちる。レモンは、木を守るために自ら実を落とすことがあると、聞いたことがある。土で薄汚れた散り散りの花びらに紛れた小さな実は、私自身を見ているようだった。
落ちた実がどうなるか私は、知らない。芽を出すのか、腐るのか。しかし、それは私自身にも当てはまることだった。
傘を持たない私は、町をあてもなく彷徨った。少しの復讐心が種のように、私の中で育ち過ぎていた。芽を出すのか、腐るのかは土が決めてくれるだろう。
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