シナリオ

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シナリオ

自分の思い描く未来を一本の小説にしなさい。そうすれば、思い描いた未来を進める。夢の中の仙女はそう言った。 馬鹿馬鹿しいと、朝から起きろと喚き散らす目覚まし時計を引っ叩く。時計に内蔵されたベルは、ジリンと嫌な余韻を残して音を鳴らすのをやめた。 それからトーストを焼き、何も付けず豆乳で五秒で飲み干し、顔を洗って歯を磨き、服を着替える。そして三分で化粧を塗って会社へ出掛ける。私は、そんな、つまらない女だった。だから、気まぐれに自宅の最寄り駅から会社の最寄り駅に着く二十四分の間に、小説にあらゆる希望を詰め込んだ。 プロジェクトチームのリーダーになり、上司や仲間と揉める毎日。そんな中、通ってるジムに見た目麗しい若手実業家の青年と出会い、恋に落ち支え合う。プロジェクトの成功と共にプロポーズをされて、喜んでいるところに会社のエースに告白をうけた。 私をめぐって二人が殴り合い、私は若手実業家を庇い、その場でもう一度、プロポーズをの言葉を言われる。そして、めでたくゴールイン。 つまらない私の二十四分で書いた人生のシナリオは、自分で書いてみても面白くもなんともなかった。 つまらないシナリオしか書けない自分が情けなくて、腹が立った。描く夢くらい大きくありたい。電車を飛び降りた私は、その日に退職願いを出し、有り金全部を注ぎ込んで一週間で会社を設立した。 色んな人の思い描くシナリオを買い取って、こうなりたいと言う人がいればそれを商品として売る。売った客を思い描いたシナリオ通りの人生にするため、あらゆる手助けをする。そういう仕事だ。 人生のシナリオの売り買いをする会社。つまり私は、自分で仙女になったのだ。
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