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断末魔みたいな声はさっきよりは抑えられたけど、鍵が掛けられた部屋では騒ぎっぱなし。
ホラー映画かよ。ライオン見られたのはラッキーだけど。
若干引き吊った表情の俺に、受付は苦笑いで弁明し出す。
「すみません、今のうちの店長です。店長がする足ツボマッサージはかなり痛いらしくて。終わった後は調子が良いみたいなんですけど」
「他の獣人のマッサージもあんな痛いの?」
獣人がやってるって事に惹かれて来たけど、やられる前にあんなの見せられたら俺だって身構える。
けど、受付は手を振って否定した。
「いえいえ、心配しなくても大丈夫ですよ! 椎葉さんを担当するセラピストはとても評判の良い方で、このサロンでも一番指名を頂いてます。ゴッドハンドだって言われてるくらいですから」
「へぇ……」
初めて来たのに、ラッキーだな。
不安が和らいで期待を膨らませていると、受付が個室をノックした。
「どうぞー」
「失礼します、ギルさん」
ギル?
聞き覚えのある名前だと思っていると、受付がドアを開けた。中には紺色のケーシーを着た狼が居て、俺をじっと見ていた。
名前が同じなのは偶然か?
知り合いか確かめる為に注意深く観察していると、相手も俺を長く見ていて妙な沈黙が流れた。
「あの、ギルさん? こちらの方の問診票です」
「あ……あぁ」
相手もおかしい時間だと感じたのか、受付から素早く問診票を受け取って目を通していた。すると、今度は耳と尻尾をぴーんと立てて、驚いたように目を見開いていた。そしてそいつは、ぐいっと俺に顔を寄せる。
「もしかして……ハルキ?」
「えっ……やっぱりギルなのか?」
「そうだよ。久しぶりだね」
身長と逞しさが増して変化はあったが、灰色の毛色と温かい笑みが昔の姿と重なった。
「マジか……でかくなったな」
「ハルキもね」
お互い成長はしたけど、百八十はある俺の身長よりギルは高かった。
「二人共お知り合いだったんですか?」
関係性が気になった様子の受付が控えめに声を発して、二人っきりじゃなかったのを思い出す。
「うん。中学の時、留学で日本に来た時の友人なんだ。僕の友人含めていつも四人で行動してて」
受付に説明していたギルの顔は、にこやかに俺の方を向いた。
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