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「危ない!」「きゃあああ!」『キキー!』
様々な声や音が聞こえる中、僕は道路に飛び出していた。
目の前には、今にもトラックに轢かれそうな男の子。
自分でも思わぬ行動だった。人並に正義感はあると思っていたが、まさか他人のために命まで懸けることが出来たとは。
走りながら無我夢中で片手を伸ばし、子供の体を突き飛ばす。小さな体が軽々と安全な位置まで転がるのが、不思議とスローモーションで見えた。多少怪我はしたかもしれないが、これでひとまず安心だろう。
目線を変えると、ただでさえ大きなトラックが更に巨大に見えた。それが凄く近い距離にあるせいだと、一瞬遅れて気付く。時間が引き延ばされたように、全てがゆっくり、ゆっくり動いていた。
――これは、もうダメかな
半ば諦めの感情が浮かぶ。
自分も走り抜けるつもりだったが、僅かに間に合わなそうだ。
まあ、子供も自分も助からないという最悪の事態だけは避けられただろうし、良しとするか。
その時、様々な記憶が映像となって頭の中を巡り始めた。
噂には聞いていたが本当に見えるのだな、僕はどこか呑気にそんなことを考える。
学生時代の自分が見えた。
あれは、そう、十年前のこと。
当時バスケ部だった僕は、中学最後の大会で試合中に足を痛めていた。あとワンゴールで逆転だが、残り時間は僅か。これが最後のチャンスというところでボールが回ってきた。前方に敵はいない。
行け――!
僕は足の痛みをこらえながら、ゴールへ向けてドリブルした。相手チームも必死で追いかけてくる。ギリギリ追いつかれる前に、僕はレイアップシュートの態勢に入り、足を踏み込んだ。その瞬間、激痛が走った。
跳べるか――?
僕は一瞬諦めそうになった自分を鼓舞する。
――がんばれ、諦めるな、がんばれ!がんばれ!!諦めるな!!がんばれ!!!
踏み込む足に力を込める。
――跳べえええ!!!
次の瞬間、僕は現実に戻されていた。
走馬灯は、過去の記憶から、命を守る術を探して起きるのだと聞いたことがある。だとすれば、これで助かれば、僕は十年前の僕に助けられたことになるのだろうか。まあ、まだ助かるかはわからないけど。
僕は道路の向こう側へ向けて踏み込む足に力を込めると、心の中で叫んだ。
――跳べえええ!!!
今日の体験がまた十年後の自分を助けることになるかもしれない。
そんな想像をしながら、僕は未来へ向けて跳ぶ。
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